【特集2】産官学連携でヒートポンプ普及 設計・製造に新しい発想必要

2023年10月3日

家庭用や産業用途にヒートポンプ(HP)普及の余地を残すと指摘する鹿園教授。水素普及のシナリオのようにさまざまな関係者が連携していくことが重要だと話す。

【インタビュー】鹿園直毅/東京大学生産技術研究所教授

―昨今のカーボンニュートラル(CN)の流れをどのように捉えていますか。

鹿園 今までは化石資源の価格が安かったために、化石燃料を前提とした体系が出来上がっていました。化石燃料を燃やしてボイラーをたけばよかったわけですが、CNの流れの中で、その体系がリセットされたとたん、右往左往している状況でしょう。

―国のGX推進会議に委員として参加し、ヒートポンプ(HP)に対して技術的な視点でコメントしていました。エネルギー政策の中でHPに対してどのような課題認識を持っていますか。

鹿園 国内の家庭用給湯や暖房用は非常に利用量が大きく、裏を返せば省エネの余地が非常に大きい。HPはその切り札になり、いかに普及させるかが大きな課題です。

冷房空調のHP、いわゆるルームエアコンは普及していますが、暖房用やエコキュートに代表される給湯用は、コスト低減、寒冷地対応、設置スペース改良といった改善に取り組めば、まだまだ普及の余地はあるでしょう。

―民生分野の利用もさることながら、産業用の熱分野も大きな課題です。

鹿園 この分野も大きな課題ですね。汎用製品となっている家庭用と異なり、産業用に導入されるHPは特殊設計です。どれくらいの容量でどのような温度帯で利用されているか分かりにくい。

 ユーザー自身が分かっていないケースもあるし、分かっていたとしても製品の品質に関わることなので企業秘密ということで公表していない。基本設計や基本ユニットが見通せると、メーカーとしても動きやすい。

 東日本大震災以前は、大手電力会社が音頭を取ってHP普及や電化に向けた効率的なシナリオを描いていました。しかし今は、システム改革の影響もあって、大手電力会社によるそういった取り組みが難しい。

―電力システム改革の弊害ということですか。

鹿園 システム改革には良い面と悪い面の両面がある。全てがうまくいく仕組みはないと思います。

―CNの達成には、大きなグランドデザインを描ける人が必要になります。

鹿園 その通りですが、誰が音頭を取るか。今後は誰かがイニシアチブを取るというよりも、ユーザー、メーカー、エネルギー事業者、われわれのような学識者が互いに歩み寄っていけるような仕組みがあるとベターです。

 その際、産業政策担当、エネルギー政策担当といった「縦割り組織」は弊害になります。われわれのような大学組織もそうです。機械、土木、建築、電気と明治時代から変わっていません。

―互いに連携するという発想は、現在の国が描く水素普及に向けたシナリオに似ています。

鹿園 そうですね。ただ、水素普及にコストをかけてCNを目指すよりも、HPの普及ははるかに割安だと思います。

燃焼系の設備も大切 欧州発のHPが逆輸入も

―HPで使う空気熱を欧州では再エネと位置付け、HP設備そのものを普及させようと動き始めています。

鹿園 大気熱とか地中熱といった環境熱はほとんど無尽蔵に存在します。HPを政策的に普及させようとするならば、そういった位置付けも有効な政策だと思います。欧州は寒冷地にもかかわらず「HPを普及させる」という政策を展開しています。将来的には、欧州でコストが低減されて製造されたHPが日本へ逆輸入される日が来るかもしれません。

―日本でHPを普及させるための有効策はありますか。

鹿園 他のエネルギーに比べて電気代をある程度安くできれば普及できると思います。FITによって今は電気料金が割高になっていますが、今後、カーボンプライシング政策によってほかのエネルギーに比べて電気が逆に安くなれば、自然とHPを使う人が増えると思います。かつて、大手電力会社が深夜電力割引メニューによってオール電化を普及させてきました。こんな仕組みがあれば自ずと普及すると思います。

―おひさまエコキュートのような取り組みをどう評価しますか。

鹿園 太陽光の発電量を自家消費するために電気でHPを動かす仕組みは確かに有効だと思います。ただ、太陽光発電パネルを所有していなくても、HPを使った方がメリットになるといった仕組みになれば、民生分野ではさらに普及していくと思います。

―燃焼系を規制するといった政策もあります。

鹿園 日本ではそこまで無理に進める必要はないでしょう。燃焼系には燃焼系の良い点もあり、コンパクトで馬力も出ます。ゆくゆくは合成燃料や水素のような燃料に転換されると思いますが、当面は天然ガスの利用が続くでしょう。

 HPで対応できる分野はHPで対応し、それ以外は合成燃料などを含めた燃焼系で対応してCNを進める方策がベターだと思います。その際、都市ガスの合成燃料は既存インフラをそのまま活用できるe―メタンが出来ていれば一層ベターでしょう。

ゼロベースで考え直す CO2冷媒を疑うことも

―今後のHP技術の展望を教えて下さい。

鹿園 熱分野の技術開発は歴史が長いにもかかわらず、電力技術に比べて思うように進まなかった。HP技術をこの際、ゼロベースで考え直してもいのではないか。

 例えばテスラは、電気自動車のボディをギガキャスト(鋳型)の方式で作ります。こうした新しいモノづくりの発想は、日本の既存の自動車メーカーからは生まれてきません。日本は、既存の枠組みの中で、「良いものを作る」「ブラッシュアップする」という取り組みは得意ですが、ゼロベースから何か新しいものを生み出すことは苦手としています。

 実はHPの領域も、そうした発想が必要なのではないかと思い始めています。給湯分野において日本では「エコキュートが当たり前」ですが、今後もCO2を冷媒とすることが本当に正しいのか、ゼロベースで考え直してもいいのではないかと思っています。

暖房・給湯用は改善の余地がある(研究室の実験装置)
しかぞの・なおき  1994年東京大学大学院工学系研究科博士課程修了。博士(工学)。日立製作所機械研究所入所。2002年東大院工学系研究科助教授、07年准教授。10年から東大生産技術研究所教授。