【特集2】日系が仕掛ける欧州地殻変動 本格実装へ技術力で勝負

2023年10月3日

欧州ではヒートポンプで使う空気熱を再エネとして定義されている。脱炭素やエネルギー自給率を高める政策に対応しようと日系企業が動いている。

欧州のエネルギー政策において、脱炭素、セキュリティーがキーワードになる中、日系のヒートポンプメーカーが存在感を高めている。ダイキン工業、パナソニック、三菱電機はEU圏内で温水・暖房用のヒートポンプ(HP)機器の増産を進めているのだ。

日系各社「増産」を進行中 日欧で異なる「熱」用途

各社のプレスリリースによると、ダイキン工業はポーランドに新工場を設立し2024年の生産稼働を目指す。ドイツ、ベルギー、チェコに続く生産拠点とする。パナソニックは25年度までにチェコ工場の生産体制を強化する。空調機器の室内機の生産を手掛けていたが、室外機の生産も行い、体制を再構築する。三菱電機はトルコだ。暖房・給湯機とルームエアコンの生産拠点を新設する。

投資金額は100億円から400億円程度と濃淡はあるが、各社は大規模な投資で生産体制を構築する。各社の生産体制に共通するのは、空気の力で湯を作るエア・トゥ・ウオーター(ATW)方式の家庭用HP機器を増産することである。

この方式の原理は通常のルームエアコンのエア・トゥ・エア(ATA)方式と同じだ。圧縮機を回して、冷媒の特性を活用しながら熱交換して温度調整を図り、望みの温度帯の熱を作っていく。日本のオール電化住宅を支えるエコキュートと同じ仕組みである。ただ、エコキュートはCO2を冷媒としているが、欧州では代替フロンを冷媒として使う(もっとも自然冷媒を使うメーカーも現れている)。

寒冷地用も仕組みはエコキュートと同じだ

技術的には「作動圧力を高める必要があるCO2冷媒の方が遙かに難易度が高い」(メーカー関係者)。製造コスト削減に向けて冷媒の「日欧統一化」も考えられなくはないが、冷媒の特性上、現状では困難だ。前提条件として、欧州と日本とでは求める湯温が異なるからだ。

日本のエコキュートは、基本は風呂を中心とした給湯向けである。水から90℃くらいの熱湯へと一気に昇温して、タンクに貯湯する。入浴時に40℃程度の風呂の温度に落とす。この「一気に昇温」がCO2ならではの冷媒特性なのである。

片や欧州。こちらは住居やビルの暖房向けだ(ちなみに風呂ではなくシャワー文化だ)。特に寒冷地の住宅内は温水配管が張り巡らされている。60℃程度の湯を配管内に循環供給し、温度が下がった戻り温水を、再び60℃程度に少しだけ昇温する。こうした特性はCO2冷媒には向いていない。ただ、共通しているのがHP技術であるということだ。

現在、欧州では、脱炭素に向けた環境意識やロシア・ウクライナ戦争によるエネルギーセキュリティーに対する意識の高まりから、ロシアからの天然ガスの依存度を減らし、再生可能エネルギーによる電化を進め、エネルギー自給率を高める動きが活発だ。いわゆる「リパワーEU戦略」(22年)である。

そのキラーアイテムが、電気で動くHPというわけだ。ここで高い技術力を持つ日系メーカーが力を発揮する。従来は、ガスインフラが整備されていたこともあり、ガスボイラーを使って家庭用の熱需要を賄っていたが、日系を中心にHPの寒冷地向けの技術開発が進んでいる。そこで市場ニーズを満たそうと、日系各社が生産増強に動き出しているのだ。再エネの電気を使えばエネルギーの自給率もさらに高まっていく。

再エネを巡る政策について、欧州では太陽光発電や風力発電の導入を進めるだけでなく、独自の政策を施している。それはHPで活用する空気熱を再エネとして定義し、主に暖房用途の場合に、空気熱利用として、再エネの統計データに落とし込んで集計している。

日本でも「エネルギー供給構造高度化法」の法体系の中で、欧州にならって同様の定義がなされているが、公共の統計データに落とし込むようなステージには至っていない。

「空気熱」に注目を 冷熱ではなく暖房用途

国内のエネルギー政策を議論する場で次のようなひとコマがあった。6月末の電力・ガス基本政策小委員会である委員が「HPは大気熱という熱源を使ってる。太陽エネルギー利用の原点に立ち返ると、再エネとして位置付ける形が適当なのではないか」という主旨の発言をした。太陽からのエネルギーには「光」もあるし、「熱」のエネルギーもある。大気熱をもう少しフォーカスしても良いのではないか――。そんな趣旨だった。

この発言に対して、「HPで動く冷蔵庫は、再エネで賄うことになるのか」といった疑問を投げ掛け、「再エネとして定義づけるのはおかしいではないか」と指摘する委員もいた。このやり取りは、温熱と冷熱とを区分けせずに議論している。欧州での再エネ定義はあくまでも暖房用途(温熱)である。結局、審議会の議論は進展せず、誤解を生んだままとなってしまった。

しかし、事実として言えることは、「寒冷地では不向き」とされていたHPの弱点が、メーカー各社の技術開発によって改良されている点だ。「ボイラーが中心だったドイツなどの寒冷地でも、HPの導入が今後、間違いなく進む」(メーカー関係者)。これが、各社が増産に乗り出している背景でもある。

「さらなる技術開発によって、ゆくゆくは日欧統一の冷媒が生み出されるかもしれない。欧州で生産されたATW方式のHP機器が逆輸入される日を期待している。統一化による量産効果は計り知れず、そうなればさらなる普及につながっていく」と言う関係者もいる。

技術開発の進展と世界のエネルギー政策の中で、日系各社が生み出すHPのさらなる可能性が注目される。

パナソニックのヒートポンプ工場(チェコ)