【コラム/11月2日】第7次エネ基議論 エネミックスと部門別CO2目標排除の提案

2023年11月2日

杉山大志/キヤノングローバル戦略研究所 研究主幹

第7次エネルギー基本計画が来年2024年にも策定されると見られている。

第6次エネルギー基本計画では、「30年に13年比でCO2などの温室効果ガス排出量を46%削減する」と言う無謀な目標がトップダウンで設定され、それに無理に数字を合わせたつじつま合わせが行われた。政治家も介入し、電源構成における再生可能エネルギー38%などといった数字が設定された。今、あらゆる政策措置がこういった数値に従って実施されている。

一応は、30年の数値は「目標」ではなく「見通し」であることになっている。すなわち、その説明をしている政府ホームページには、「エネルギー基本計画見直しで、『2030年度におけるエネルギー需給の見通し』も見直し」という段落の中で、「需給両面におけるさまざまな課題の克服を野心的に想定した場合、どのようなエネルギー需給の見通しとなるのかも示されました」と書いてある。

だが、その続きには、「30年度の新たな削減目標はこれまでの目標を7割以上引き上げるもので、その実現は容易なものではありませんが、エネルギーミックスの実現に向けて、あらゆる政策を総動員し、全力で取り組みます」とも書いてある。つまり数値は「目標」だと説明している。実際には「目標」として認識され運用されている。これが実態だ。

困ったことに、38%といった数字の設定は、技術的・経済的な検討が極めて不十分なままに行われた。このため、再エネ大量導入などに伴ってコストが膨大になり、電気料金はますます高くなってゆくことは必定だ。だが計画に数字が書き込まれているために、なかなかブレーキが利かない。

手本になる米国方式 独立機関の予測重視

そもそも国には将来のCO2排出量を決める能力はない。経済成長がどの程度になるかは予測できない。また、計画の実施段階になって、技術的な課題が克服できなかったり、立地問題に直面したり、経済安全保障の問題が浮上したり、経済的なコストが予想以上にかかったりする。将来のCO2排出量は本質的に不確実である。それにも関わらず数値目標を強行すれば多大な害悪が発生する。

これを除くにはどうすればよいか。米国が参考になる。

米国では、①あらまほしき目標を政権が決めるけれども、②その実施段階においては個別具体的な政策を是々非々で議会が制定し、③その結果としてどの程度のCO2排出量になりそうかは独立な機関が第三者的な立場から予測する――という3つのステップを踏んでいる。

米国の「国家気候タスクフォース」公式ホームページで確認しよう

米国大統領は以下の3点を公約している:

・30年に米国の温室効果ガス排出量を05年比で50~52%削減する。

・35年までに炭素汚染のない電力を100%にする

・50年までにネット・ゼロ・エミッション経済を達成する

そしてこの達成のためとして、インフレ抑制法、超党派インフラ法などの法律を制定している。しかし、米国政府として部門ごとのCO2排出量の内訳を決めるとか、発電部門のエネルギーミックス(電源構成)を定める、といったことはしていない。

その代わりに、エネルギー省(DOE)に属するエネルギー情報庁(Energy Information Administration, EIA)が、現行の政策に基づくとCO2排出量がどのようになるか、予測を発表している

その予測を見ると、前述の米国政府の目標はことごとく未達である! 

例えば、30年のCO2排出量は50%削減には程遠いし、35年の電力部門のCO2排出もゼロには全然なっていない。

EIAは「法律により、我々のデータ、分析、予測はいかなる米国政府の組織または人の承認を受けない独立なものである(By law, our data, analyses, and forecasts are independent of approval by any other officer or employee of the U.S. government)」としている。

政府がつじつま合わせのために鉛筆をなめて作る数字ではない、ということだ。

つじつま合わせ脱却へ 費用便益・リスク精査を

日本も、第7次基本計画においては、米国方式を取るべきだ。つまり、第7次基本計画からは部門別のCO2排出量の数値や、エネルギーミックスと呼ばれる発電部門の電源構成についての数値は除外すべきだ。

そして具体的な政策の導入にあたっては、それら政策の費用・便益・リスクを精査した上で妥当なものを選ぶ。

なお電力部門においては、かつてそうであったように、原子力などの大規模な電源や送電線については、全体としての需給の調整を図るために、国としての長期計画が必要だろう。

独立した機関による長期予測については、実はそれに準じるものが既にある。

日本エネルギー経済研究所は、IEEJアウトルック2023として、過去の趨勢に従った場合(レファレンスシナリオ)と、最大限技術を導入した場合(技術進展シナリオ)について、将来予測を行っている。

そして「技術進展シナリオ」においてすら、米国、欧州連合ともに30年のCO2削減目標は未達、とされている。

日本の30年目標も未達である! また50年の世界のカーボンニュートラルについても「実現には程遠い」とはっきり記してある。50年のCO2排出量は20年の半分程度に留まる。

これが現実だ。トップダウンで無謀な目標を立てても、実現不可能なのだ。それに向かってつじつま合わせをした数値目標に振り回されると、どこかで必ず破綻する。それを回避するための軌道修正が遅れるほど、無駄なコストがかさみ経済が疲弊することになる。

次期の第7次基本計画においては、部門別のCO2排出量や、エネルギーミックス(電源構成)の内訳の数字は除外すべきだ。それに代えて、日本エネルギー経済研究所などの研究機関が予測をすればよい。それは、経済成長や技術進歩などの不確実性を取り込めば、当然、かなり大きな幅を持ったものになる。これは米国EIAでもそうなっている。

そして将来予測に当たっては、これも米国EIAに倣い、政府の介入や承認を受けず、独立の専門機関として実施すべきだ。

【プロフィール】1991年東京大学理学部卒。93年同大学院工学研究科物理工学修了後、電力中央研究所入所。電中研上席研究員などを経て、2017年キヤノングローバル戦略研究所入所。19年から現職。慶應義塾大学大学院特任教授も務める。「亡国のエコ 今すぐやめよう太陽光パネル」など著書多数。最近はYouTube「キヤノングローバル戦略研究所_杉山 大志」での情報発信にも力を入れる。