米大手金融機関が注目するGX情勢 水素や原子力への投資・政策に勢い

2023年11月16日

【シティグループ】

 世界的に脱炭素の投資競争が加速し、日本でもGX(グリーントランスフォーメーション)が進む中、金融機関は具体的にどんな分野に興味を示しているのか―。

米金融大手シティグループのシティ・グローバル・パースペクティブ&ソリューション(シティGPS)はこのほど、水素と原子力に関するレポートを公開した。両分野に注目した理由として同社は、「水素と原子力エネルギー開発のための投資と政策の勢いは強く、この傾向が短期的に変わることはないだろう」と強調する。

日本でも水素利用の取り組みが各地で進む

ブルームバーグNEFによると、水素関連の資金調達額は2022年、1・1兆ドルに到達。23年初頭にサウジアラビアで85億ドルのプロジェクトが始まったほか、米国では21~22年にかけてインフレ抑制法などにより1・7兆ドルもの投資優遇措置が講じられ、中でも水素関連が目立つ。税制優遇調整後のグリーン水素の純生産コストは、10年後にはマイナスになる可能性もあるという。このほか多くの国でも政府の優遇措置が拡大する。

シティグループのコモディティ・ストラテジストのマギー・リン氏は、日本が注力する合成メタンについても「世界的に勢いを増しているトレンド。大気中から回収したCO2と、再生可能な電力で取り出した水素から製造する合成ガソリンも注目されている」と強調。他方、日本の水素プロジェクトではグリーン水素に限らず、化石燃料由来の内容がある。「豪州から水素を輸入するHESCプロジェクトに16億ドルを出資した動きなどには賛否両論がある」と指摘した。

原子力を巡っては近年、既存原発や新設、さらに先進的取り組みにも投資を支援する方向に転換する。原子力でも、米国のインフレ抑制法や超党派インフラ法が後押し。また欧州のグリーン・ディール産業計画のほか、英国や中国、日本、カナダなどでも規制イニシアチブの制定が進み、公的投資と民間出資の双方を促している。


革新炉や核融合も投資活況 中露はさらなるスピード感

各国で小型モジュール炉や先進型原子炉などの商業化が進むが、ロシアと中国は一歩先を行く。一方核融合は、今後10年間で商業化される可能性が高いという。

日本の原子力政策についてコモディティ・ストラテジストのアルカディ・ゲボルクヤン氏は「休止中原発の再稼働に一定の進展が見られる。また官民レベルでの追加的な資金調達は、次世代原子力エネルギー開発をさらに刺激する可能性がある」と分析。他方、核燃料サイクルについては「特に地政学的リスクの高まりが非常に懸念される。リスク軽減に向けG7(先進7カ国)諸国は追加的な能力を開発すべきだ」ともくぎを刺す。