【コラム/11月21日】再生可能エネルギー電源の支援制度 ~FIP vs. CFD~

2023年11月21日

矢島正之/電力中央研究所名誉研究アドバイザー

わが国では、再生可能エネルギー電源の支援制度として、2022年度よりFIT(Feed- in Tariff)制度に代えて、FIP (Feed-in Premium)制度が同電源の大部分に対して導入されることになった。わが国のFIP制度でも、一定規模以上の大部分の再生可能エネルギー電源に関して、買取価格は競争入札で決める。FIT制度は、再生可能エネルギー電源の普及を促すことを目的として導入されたのに対して、FIP制度は、再生可能エネルギー電源を電力市場へ統合するにあたっての段階的な措置と位置づけられるが、FIP制度には問題点も指摘される。

ドイツでも、現在、再生可能エネルギー電源の支援制度としてFIP制度(変動型プレミアム制度)が幅広く採用されているが、ベルリンにある非営利学術機関であるドイツ経済研究所DIW は、再生可能エネルギー電力の買取価格を入札で決めるFIP制度の問題点を指摘し、下記に述べるように、差金決済契約(Contract for Difference : CFD)制度のほうが、支援制度として優れているとしていると指摘している。

風力発電や太陽光発電は、変動費は低いが、資本費は高い。したがって、資金調達コストがコストの重要な部分を占める。資金調達コストは、発電による将来の収益がどの程度確実かに依存する。投資決定時に、発電による収入の確実性が確保されている場合、投資家は安い金利の借入金で投資資金を調達することができる。他方、投資家が収益計算において不確実な電力価格を考慮しなければならない場合、他人資本を提供する金融機関はリスクを敬遠するため、金融機関からの借り入れは難しい可能性がある。このため、より多くの自己資本が必要となり、資金調達コストが増加する。

過去において、入札価格(落札価格)が市場価格を上回っていたときは、FIP制度の下でも安定的な収入が確保され、資金調達コストは安かった。しかし、最近のように、再生可能エネルギー発電の生産コストが市場価格に近づくほど低下している場合には、状況が異なってくる。FIP入札では競争圧力がかかるため、投資家は可能な限り低い入札額を提示できるよう、電力市場から収入を得る可能性を考慮する結果、入札価格が電力生産コストを下回る傾向がある(欧州の洋上風力発電の入札では、プレミアム0での落札が常態化している)。そのような状況では、市場価格が入札価格(落札価格)よりも低い場合、入札価格での買取が保証されるが、それは、生産コストを下回っている。市場価格が実際の生産コストよりも低い場合、エクイティは実際に必要な配当を受けることはできない。また、市場価格が高く、入札価格を上回る場合、入札価格を超える市場価格が追加的な収益機会を決定するようになる。しかし、入札価格を超える電力市場からの収入は不確実であるため、資金調達コストが増加し、消費者は技術的なコスト低下の恩恵を十分に受けられなくなる。

CFDは、再生可能エネルギー電源に対する支援策として、すでに英国のほか、デンマーク、イタリア、フランスで採用されており、数年後にはEU大でも採用されることになるだろう。CFDは、競争入札で決定された価格での長期購入契約を意味している。現行のFIPと同様に、市場価格が契約価格(入札価格)を下回ると、事業者は、その差を受ける。逆に、市場価格が契約価格を上回った場合、事業者はその差を系統運用者などの契約相手方に支払わなければならない。これにより、再生可能エネルギー賦課金は減少し、消費者の負担は減じる。消費者は、差額契約を上回る電力価格の高騰に対して守られることになるため、エネルギー転換のアクセプタンスも高まると考えられる。

FIPの下では、再生可能エネルギー事業者は、生産コストをカバーするために入札価格を上回る電力価格からの収益を期待するのに対して、CFDは、事業者が入札価格を上回る電力価格からの収益を期待しなくても生産コストをカバーできる収益を保証する。資金調達にさいして、そのような不確実な収益を考慮する必要がなくなるため、CDFは、FIPのように資金調達コストを増加させることはない。

CFDでは、生産コストを下回る入札をすることはないと考えられる。仮に、そのレベルで落札したら、電力価格がそれを上回る部分は契約相手方に返却しなくてはならず、事業は赤字となるからである。逆に、競争環境下では、生産コストを上回る入札もできないため、生産コストで入札すると考えられる。DIWのモデル計算では、生産コストの下落に伴い、CFDによる入札価格よりもFIPの入札価格の方が急激に下落していくが、技術的コストの低下は、高い資金調達コストによって相殺され、消費者のコスト削減にはつながらない。

DIWは、様々な再生可能エネルギー支援制度の中で、消費者が発電コスト低下の恩恵を最も受けることができるのは、CFDの場合であると結論づけている。DIWのモデル計算では、CFDの導入により、現在のFIPを維持する場合と比べて、2030年において、ドイツの消費者全体の支払いは、年間約8億ユーロの節約が可能になる。また、固定プレミアムでは、CFDと比べると、年間27億ユーロ弱の追加コストが発生する。支援制度なしでは、CFDと比べ、追加コストは、年間約34億ユーロと増大する。CFD以外の支援制度では、資金調達にはより多くの自己資本が必要とされる。DIWの見解によれば、このような投資は、基本的に、より大きなリスクとより高い期待リターンを伴う投資を行うことができる大規模なエネルギー事業者のリスクリターンプロファイルに合致するため、再生可能エネルギー電源の担い手の多様性が損なわれる可能性がある。

最後に付言しておくと、ドイツの現行のFIPは、変動型プレミアム制度であるのに対して、わが国で採用されるFIPは、固定型と変動型の中間の制度と言われている。ともに、プレミアム単価は、参照価格の変動に応じて毎月変更されるが、参照価格は、ドイツでは月単位の平均卸電力市場価格で決められるのに対して、わが国では、前年度年間平均卸電力市場価格に月間補正価格を加味したもので決められる。このような制度設計の違いはあるが、上述の考察は、わが国のFIP制度に関しても当てはまることであり、適切な再生可能エネルギー電源の支援制度を考える上で参考になるだろう。

【プロフィール】国際基督教大修士卒。電力中央研究所を経て、学習院大学経済学部特別客員教授、慶應義塾大学大学院特別招聘教授、東北電力経営アドバイザーなどを歴任。専門は公益事業論、電気事業経営論。著書に、「電力改革」「エネルギーセキュリティ」「電力政策再考」など。