【コラム/1月22日】米国の電力自由化は成功しているか

2024年1月22日

矢島正之/電力中央研究所名誉研究アドバイザー

米国で、電力自由化の成否についての議論が最近活発化している。米国では、1997年にロードアイランド州で産業用需要家に限定した電力自由化が、そして1998年には、カリフォルニア州とマサチューセッツ州で家庭用需要家も対象とした全面自由化が始まり、その後本格的な電力自由化時代に突入した。同国では、電力自由化開始後、電気料金は上昇基調にあり、とりわけ2022年は、世界的に大きく上昇した化石燃料価格を反映して、全国平均の家庭用電気料金の上昇率は、13%と自由化開始以降最大となった。これを契機に米国では、電力自由化に対する疑問が呈されるようになった。

2023年1月4日のニューヨーク・タイムズ紙には、「なぜエネルギー価格はこれほど高いのか?規制緩和を非難する専門家もいる」と題した記事が掲載された。米国では、電力小売市場が自由化された州と規制されている州があるが、記事では、何人かの専門家の見解を紹介しつつ、自由化州では、非自由化州と比べて電気料金は高くなる傾向があり、自由化州の消費者は、非自由化州の消費者よりも電気代を月約40ドル多く支払っていると指摘している。実際、エネルギー情報局(EIA)のデータで見ると、電力自由化開始当初から自由化州の電気料金は非自由化州と比べて高かったが、その差は現在まで縮小していない。

エネルギーアナリストであるRobert McCullough氏は、ニューヨーク・タイムズ紙の依頼で電気料金の動向を調査したが、自由化州と非自由化州の料金格差がこれほど長い間縮小しないのは、何か機能不全があるはずだと述べたことを同紙は紹介している。そして、比喩を使って「あなたの車の調子が20年もの間悪ければ、修理工場やディーラーにもっていくでしょう」とも述べたとのことである。

ニューヨーク・タイムズ紙によれば、自由化州の電気料金が高いのは、発電事業者が卸電力市場に電力を販売し獲得した利益が、効率化によるコスト節減分を上回っており、その差額が消費者に還元されていないためである。また、自由化で、発電や小売は、競争にさらされるようになったが、送配電は依然として独占であり、利益の増大のためにネットワークを拡大するインセンティブが生じ、その投資コストが増えていると述べている。そして、自由化州では、規制当局によるネットワークの建設計画や料金の認可は甘くなっているとしている。これに対して、非自由化州では、垂直一貫した電気事業がより厳しい規制を受け、コスト管理もより厳格であるとの見解が述べられている。

消費者団体の見解も紹介されており、わが国でも有名なRalph Naderが設立した消費者権利擁護団体Public Citizenでエネルギー・プログラムを担当するTyson Slocum氏は「こうした市場(自由化地域で設立されている独立系統運用者が運営する市場)は、実はあまり効率的ではない。このような市場は、実は最小コストのオプションではない」と述べている。Tyson Slocum氏には、筆者も何回かお会いする機会があったが、彼は、一貫して、垂直統合され規制された電気事業のほうが、垂直統合が分離され、競争が導入された電気事業よりも効率的だとの見解であった。また、カリフォルニア州の消費者団体TURN (the Utility Reform Network)も同様な見解を示している。筆者が、かつてTURNのダイレクターであったRobert Finkelstein氏にお会いした時、同氏は、「多くの消費者団体がそうであるように、TURNも電力分野は規制のままが(従って垂直統合が)望ましいとの立場である」と述べていた。 そして「知らない悪魔より知っている悪魔のほうがまだましだ」と述べた言葉は印象的であった。

さらに、Harvard Business SchoolのAlexander MacKay教授とFlorida大学のIgnacia Mercadal教授が発表したワーキングペーパー(2023年11月28日にアップデート)でも、発電会社によってチャージされる高いマークアップは、効率化によるコスト削減を上回り、卸売価格が高くなり、これが小売料金を押し上げていると述べている。

これらの自由化への批判に対しては、自由化を推進する立場からは当然反論もある。実際、先述のRobert McCullough氏が過去に同じ趣旨の見解を提示したとき、米国における電力自由化を主導したHarvard大学のWilliam W. Hogan教授は反論し、独立系統運用者が運営する卸電力市場における限界発電プラントによる入札価格で市場が高価格となることは、市場の効率性を意味しており、卸電力市場における市場支配力軽減ルールにより、高価格が市場支配力の行使によるものか、効率的な運営の結果かは、チェックされていると述べている。さらに、自由化地域で設立されている独立系統運用者が運営する広域的な市場において、増大する再生可能エネルギー電源のネットワークへの統合を促進するためにはネットワークの増強は必要であり、地球環境問題の解決の観点からも望ましというのが規制当局の基本的な考えである。

このように、米国では電力自由化を批判する見解とそれを擁護する見解とがあり、議論は平行線である。しかし、自由化が始まり20年以上経過し、自由化州と非自由化州の料金格差が一向に縮小していない事実がある限り、米国の電力自由化が成功したとは言い難く、自由化への批判や懐疑論は根強く存続し続けるだろう。

【プロフィール】国際基督教大修士卒。電力中央研究所を経て、学習院大学経済学部特別客員教授、慶應義塾大学大学院特別招聘教授、東北電力経営アドバイザーなどを歴任。専門は公益事業論、電気事業経営論。著書に、「電力改革」「エネルギーセキュリティ」「電力政策再考」など。