人材確保を阻む広大な過疎 北海道の「自然との戦い」

2024年2月4日

【電力事業の現場力】北海道電力労働組合

安定供給を維持すべく、現場は厳しい自然に立ち向かう。

万が一の事故に備え、冬場は特に気の抜けない日々が続く。

 「週末の大雪に備えて自宅待機の要請が……」

取材に出向いた金曜日の夕刻、北海道内各地に配属された北海道電力ネットワークの社員に自宅待機を要請するメールが送られた。各地の社員は札幌市など都市部からの単身赴任者が少なくないが、冬場はこうした要請で帰省など週末の予定をキャンセルせざるを得ないケースがある。

送配電部門の場合、冬場の停電事故復旧は自然との戦いだ。第一、吹雪などで事故現場にたどり着けるかどうかも分からない。それでも、復旧のためにはどうにか現場に足を運ぶ必要がある。時には資材や機材を抱えながら雪上車に乗り、さらに細い道ではスノーモービル、いざとなればスキーや徒歩で現場に向かう。吹雪で目的地の方向が分からなくなると、雪を掘り、風よけをつくって耐えしのぐほかない。到着後も長靴を履き、防寒着で着膨れした状態で鉄塔や電柱に登るのは一苦労だ。

泊原子力発電所での災害対応(参集)訓練

冬場の通常業務としては、鉄塔や電柱、がいし、電線に積もった雪を落とす「冠雪落とし」がある。人口密集地では電気設備から落雪し、住民や家屋に損害を及ぼす危険も。2022年12月には紋別市内の送電線の鉄塔が、大きな着雪が発達する非常にまれな気象条件と、着雪量のアンバランスによる過大な張力差が重なったことにより倒壊し、オホーツク地方で大規模な停電が発生した。

紋別市内の送電線の鉄塔が倒壊(2022年12月)

北電の原子力や水力の現場でも、寒冷地ならではの苦労がある。積雪や寒さなどの厳しい環境下での事故対応訓練や、いかなる状況でも社宅や寮などから参集できる訓練も実施している。また水力ではダムの取水口に氷雪が詰まるのを防ぐため、重機で取り除く作業が必要となる。


度重なる料金値上げ 魅力ある職場の難しさ

北海道はデータセンターの立地や国策半導体メーカー「ラピダス」の開業など、電力需要の拡大が見込まれている。さらに洋上風力の設置や海底直流送電の整備など北電グループが対応する範囲は広がるが、頭を悩ませるのが人材の確保だ。その要因の一つに「広大過疎」がある。

北海道は札幌市を除くと、全国の他地域に比べて人口減少のスピードが速い。中にはスーパーや病院が存在しない自治体もある。広大な土地での転勤に拒否感を持つ若者も少なくないといい、働く環境づくりが課題だ。

北電の販売部門も正念場を迎えている。昨年6月に規制料金の値上げを実施したが、これは11年の東日本大震災以降、旧一般電気事業者で最多の3度目。過去2度の値上げにより、規制料金は全国でも高い水準となっていた。22年には燃料費調整額が上限を超過し、電気を売れば売るほど経営を圧迫する状況に。販売部門のモチベーションに影響しかねなかった。

賃上げが叫ばれる中で、電力業界は値上げの度に経営効率化を求められている。だが、給与面を含めて魅力ある職場でなければ、人材確保は困難だ。北海道電力労働組合の山下則和本部執行委員長は「工事などを担う協力会社に人が集まらず、最悪の場合は電気が供給できなくなる可能性もある。危機感は大きい」と話す。

豪雪地で欠かせない「冠雪落とし」

人々の生活に不可欠な携帯電話や車などは機能が向上することもあり、製品価格が上がっても受け入れられる傾向がある。一方、電気は「あって当たり前」で、値上げへの反発が大きい。しかし、「当たり前」の裏には現場の努力や人手不足の現実があることを忘れてはならない。