【静岡ガス 松本社長】30年ビジョン実現へ 中計で事業領域を拡大 組織開発・人材育成に力

2024年5月1日

2030年ビジョンの対応が加速する中、社長に就任。

自らが策定に携わった中期経営計画では、今後の成長に向け、事業領域の拡大を推進する。

信条でもある組織開発・人材育成に力を入れ、次の世代へのバトンリレーを着実にこなしていく。

【インタビュー:松本尚武/静岡ガス社長】

まつもと・よしたけ 1993年大阪大学理学部卒、静岡ガス入社。2020年静岡ガス&パワー社長、22年南富士パイプライン社長、23年静岡ガス常務執行役員経営戦略本部長などを経て24年1月から現職。

井関 まずは社長就任にあたっての抱負をお願いします。

松本「静岡ガスグループ2030年ビジョン」を確実に推進したいと考えています。社長職はバトンリレーのようなもので、2030年に向けた期間を担うべくビジョンを推進し、その次の成長やあり方を考えていくのが私の仕事です。それを進めるためには当然、人・組織が重要であり、そのための人材育成や組織力の強化が欠かせません。当社のビジョンは七つの事業で構成されていますが、特にこれらの推進に必須な人・組織を重点的に強化していく考えです。

井関 社長就任の打診はどなたから?

松本 岸田裕之会長(前社長)から伝えられました。本当に自分でいいのかと驚きましたが、挑戦したいという思いがあり、これまで育ててもらった先輩・後輩に恩返しするチャンスだとも考えました。また、静岡ガスの企業理念でもある「地域社会の発展」に貢献したいという気持ちが強く、引き受けることを決めました。

井関 入社後から今日まで、どのような歩みでしたか。

松本 最初の3年ほどは工場での生産やシステム関係の業務に携わった後、家庭用や産業用の営業を担当しました。1990年代半ばから2010年にかけて、産業用の需要拡大によって当社グループの販売量が増大したことに伴い、産業用の大口開拓の営業をメインに行いました。そのほか、技術系やインフラ関係、電力事業など一通りの分野を経験しました。

また、1999~2002年に日本ガス協会に出向する機会もありました。ちょうど大口の自由化が軌道に乗り始め、料金値下げ時の届け出化や選択約款の導入が始まった時期になります。自社に戻ってからは、エネルギー戦略部で主に電力事業を見ていました。当社は14年に電力の専業子会社として静岡ガス&パワーを設立しており、20年にはエネルギー戦略部長と静岡ガス&パワー社長を兼務。22年には経営戦略本部に移りました。その後、INPEXと東京ガスの合併会社・南富士パイプラインが経営戦略本部の所管だったこともあり、同社の代表取締役社長に就任しました。


三つのフェーズで対応 中計で事業領域拡大へ

井関 23年通期の業績評価と今期の業績見通しの感触はいかがですか。

松本 23年の業績については、原料費調整制度のスライドタイムラグによる一過性の増益が大きく、当期純利益は対前年比136・1%増の141億円ほどとなっています。ただ、エネルギー価格高騰などに伴い、小口のお客さまを中心にガスの使い控えなどによる減収が大きく、むしろ危機感を持っています。さらに新型コロナ感染症が第5類に引き下げられたことで巣ごもり需要がなくなったことや、特に今年1~2月は暖冬も重なり、販売量が減少しています。これは電力や石油系も同様の傾向にあるはずです。

加えて、輸出を中心とする製造業の在庫・生産調整でも使用量が減っており、この需要がすぐ増加に転じるとは考えにくく、例えば事業領域の拡大などは早急に取り組むべき課題の一つです。他方、一部の超大口のお客さまはまだ石炭や重油を使っており、都市ガスへの燃料転換推進などで引き続きガス事業の成長も図っていきます。

静岡ガスグループの2030年ビジョン

井関 24~26年の中期経営計画も発表されています。中計の狙いや実行にあたってのポイントはどうですか。

松本 グループの30年ビジョンの実現に向けて三つのフェーズで対応していきます。24年までが「信頼のブランド強化」、25年からの3年間は「事業領域の拡大」を目指す時期です。先ほど述べたように、都市ガス分野も伸ばしつつ、それ以外の事業領域の拡大をさらに進めていく方針です。

井関「信頼のブランド強化」の手応え、そして「事業領域の拡大」の柱となる事業の詳細を教えてください。

松本 前者については、コロナ禍で思うように動けない時期もありましたが、われわれが安全・安心を主張するだけでなく、お客さまから「静岡ガスは信頼できる」と捉えられ、一定のブランド力を築くことができたと思っています。後者では、一つは電力・再生可能エネルギー事業です。電力と再エネを一体で進めることで、30年ビジョンを構成する成長の柱の一つになるでしょう。もう一つは海外事業で、これまでローカルで進めていたものをグローバルに展開していきます。もちろん、ほかの事業も収縮させず、引き続き成長を目指します。

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