【コラム/5月1日】IEAのフェイクニュース 「クリーンエネルギーで経済成長」は適切な評価か

2024年5月1日

杉山大志/キヤノングローバル戦略研究所研究主幹 

IEA(国際エネルギー機関)がまたもや愚かな報告書を出した。タイトルは「クリーンエネルギーが経済成長の原動力となっている(Clean energy is boosting economic growth)」である。

https://www.iea.org/commentaries/clean-energy-is-boosting-economic-growth

報告書を見ると、

・2023年の世界GDP成長率の10%をクリーンエネルギーが占めた

としたうえで

・欧州では経済成長の3分の1がクリーンエネルギーによるものだった(図) として、欧州のクリーンエネルギー政策をやたらと持ち上げている。

だが、ここで何を勘定しているのかというと、

・クリーンエネルギー技術の製造:太陽光発電、風力発電、バッテリー製造のバリューチェーンにおけるクリーンエネルギー製造への投資

・クリーンな発電能力の導入:太陽光発電、風力発電、原子力発電、蓄電池など、クリーンな発電能力の導入と電力ネットワークへの投資

・クリーン機器販売:電気自動車(EV)やヒートポンプの販売

となっている。

つまり、

・再生可能エネルギーなどの導入による電気代高騰に伴う経済への悪影響

・EVの導入による運輸・物流コスト上昇に伴う経済への悪影響

などは入っていない。経済分析というのは、便益と費用と両方見なければ落第なのに、費用の方を見ていない。

それに、GDPが増えたといっても、可処分所得が増えないと意味が無い。ロシアが戦争のおかげで軍事費が増えてGDPが増えていると言っているのと同じような議論に過ぎない。

EUのGDPはかろうじて0.5%成長しているにすぎず、その3分の1がクリーン投資なのだそうだ。だが、そもそもなぜ0.5%しか成長していないかといえば、そのエネルギー政策があまりにまずかったからではないのか?

と言う訳で、IEAは経済分析能力を放棄して、EUなどの好むクリーン政策をひたすら正当化するだけの組織に成り下がってしまった。昔はもっとまともな分析をする組織であり、エネルギー安全保障を真剣に考える機関だったと思うが、残念なことだ。

こんなIEAなら無い方がよい。

IEA解体論は米国の共和党系シンクタンクで盛んに議論されている。「たぶんトランプ」になれば、ただでは済まないのは間違いなかろう。

【プロフィール】1991年東京大学理学部卒。93年同大学院工学研究科物理工学修了後、電力中央研究所入所。電中研上席研究員などを経て、2017年キヤノングローバル戦略研究所入所。19年から現職。慶應義塾大学大学院特任教授も務める。「亡国のエコ 今すぐやめよう太陽光パネル」など著書多数。最近はYouTube「杉山大志_キヤノングローバル戦略研究所」での情報発信にも力を入れる。