【特集2】バイオ燃料で石油元売りが攻勢 供給網構築へ官民連携で挑む

2024年6月1日

脱炭素化の潮流を追い風に航空燃料まで用途が拡大するバイオエタノール。

元売り各社は技術力を磨きながら、成長分野を切り開く可能性を探る。

カーボンニュートラル(温室効果ガス排出量を実質ゼロ)の実現に向けて、自動車燃料や化学品向け原料などに用途を拡大してきたバイオエタノールを巡って、石油元売り大手の存在感が高まっている。世界的に需要が高まるSAF(持続可能な航空燃料)の原料としても注目を集める中で各社は、関係企業と連携しながら技術開発や実証試験で攻勢をかけ、この成長分野で競争優位に立つことを狙う。


古紙原料に燃料製造 事業化へ実証始動

バイオ燃料分野に熱い視線を注ぐ一社が、ENEOSだ。今春には、TOPPANホールディングスとの間で共同開発契約を結び、古紙を原料とした国産バイオエタノールの事業化に向けた実証事業に乗り出した。

両社は、2021年からエネルギーの脱炭素化と循環型社会づくりを後押しようと、共同でバイオエタノール事業について検討。TOPPANが開発する防水加工された紙などの難再生古紙を原料とする前処理工程に、ENEOS開発のエタノール連続生産プロセスを組み合わせて製造効率を高めることを目指し、協議を重ねてきた。

商業生産されたSAFを搭載する国内線専用機
提供:ANA

実証事業では、「前処理工程で不要物質が適切に除去され、繊維分が豊富な原料となっているか」「糖化発酵工程で原料の連続投入とエタノールの抽出によって製造効率を高めることができるか」といった観点から検証するため、26年度にパイロットプラントを稼働。そこで事業の採算性を見極め、30年度以降に事業化したい考えだ。

「エネルギー・素材の安定供給」と「カーボンニュートラル社会の実現」の両立に向けて挑戦するという長期ビジョンを打ち出すENEOSグループ。こうした方針に沿って「カーボンニュートラルへのトランジション(移行)を実現するためのオプションの一つ」と位置付けるのがバイオエタノールだ。

同社の大立目悟・次世代燃料部長は「カーボンニュートラルに向けた先行きは不透明で、どの方向に進むべきかと言い切れない。現状ではCO2排出量の削減効果と経済性を両立するという観点から多様なオプションを追求する必要がある」と強調。その上で、自国の産業競争力を高める観点から「国内でバイオ燃料をつくる可能性も探りたい」との思いを持ちつつ、最適な選択肢を探索することに意欲を示した。

一方、SAFの社会実装に積極的な姿勢を示すのが出光興産だ。50年のカーボンニュートラル実現に向けて取り組む「重点4事業」を設定し、その中にSAFを盛り込んだ。カーボンニュートラルへの投資額は約8000億円を想定している。

SAFは、28年度から千葉事業所(千葉県市原市)と徳山事業所(山口県周南市)で製造。生産能力は千葉で年10万㎘、徳山が同25万㎘を計画している。原料のバイオエタノールは国内外から調達。エタノールからSAFを製造する同10万㎘級の「ATJ製造商業機」の開発にも世界に先駆けて挑む。

古紙を原料とした国産バイオエタノール製造プロセス

地球温暖化対策やエネルギー源を多様化する観点から有望視されてきたバイオエタノール。日本もそうした視点から、エネルギー供給構造高度化法で石油精製業者に対してバイオエタノールを「原油換算で毎年 50 万㎘」導入することを義務付け、順調に達成されてきた。

ただ、ガソリン全体の需要量の2%弱にとどまっているのが現状。背景にはバイオエタノール価格がガソリン価格を上回るほか、輸入したバイオエタノールを国内でバイオETBE(エチル・ターシャリー・ブチル・エーテル)に合成して使う際のコストが大きいという問題も横たわる。結果として、供給のほとんどを米国とブラジルからの輸入に依存。欧米に比べて日本のバイオエタノール自給率は極端に低く、エネルギー安全保障上のリスクとなっている。


政府が支援を強化 試される日本の真価

それだけに、バイオ燃料のサプライチェーン(供給網)を国内に構築する展開への期待感は大きい。すでにSAFを巡っては、政府が「30年時点で航空機による燃料使用量の10%をSAFに置き換える」という目標を設定。国産SAFの開発と製造を促すとともに、供給側と利用側が連携して供給網づくりを進める方針も示した。

22年4月にはSAFの導入を促進しようと経済産業省と国土交通省が、石油元売りや航空会社などが参加する官民協議会を発足。資源エネルギー庁によると、大規模なSAF向け製造装置への投資を促す約3000億円規模の支援策を今後5年間で推進。SAFの国内生産・販売量に応じて税額控除する措置も打ち出した。

「国家戦略としてGX(グリーントランスフォーメーション)を進める方向性は非常に重要。エネルギー供給事業者として中心的なプレーヤーであり続けたい」と意気込むのが出光興産の木藤俊一社長。エネ庁も「原料供給国と連携して国内で磨いたバイオ燃料関連の経験やノウハウを製品や輸出に生かす」可能性を視野に入れ、民間が磨く技術に期待を寄せる。官民一体でバイオ燃料分野をどこまで開拓できるか。こうした技術開発を進めつつ、世界で広く利用される農作物由来バイオエタノールのガソリン混合やSAF製造への活用を促す国内インフラの整備が重要だ。