安定電源として再エネを活用 調整力で活躍するエコキュート

2020年9月8日

深夜に稼働して蓄熱し、電力負荷の平準化に貢献する――。
従来のエコキュートの在り方が今、大きく変わろうとしている。
「蓄熱」の仕組みが、さまざまな分野で調整力として活躍し始めた。

東洋一と称されるビーチリゾートなどが有名な沖縄県宮古島。観光地の一面とともに、エネルギー面において先進的な取り組みで注目されている。

目指すのはエネルギー自給率の向上だ。同島ではエネルギーの約97%を島外からの化石燃料に依存。かつ電力需要が小さく、発電所のスケールメリットを生かせずにコストがかかるといった島特有の課題を抱えていた。そこで、宮古島市では2018年に「エコアイランド宮古島宣言2・0」を策定。16年時点でわずか2・9%だった自給率を、30年に22・1%、50年に48・9%に向上させる計画だ。

島内にあるメガソーラー実証研究設備

同市は、沖縄県の受託で「島嶼型スマートコミュニティ実証事業」を11年から行い、家庭や事業所、農地にエネルギーマネジメントシステムの導入を進めてきた。さらに、次なるステップとして、18年度からフィールド実証がスタートする。実証のポイントは、需要側の調整力を活用し、再エネの大量導入とエネルギー自給率向上を図る点だ。

事業には沖縄県のベンチャー企業・ネクステムズと子会社の宮古島未来エネルギーが参画する。島の住民が実際に生活する市営住宅や戸建て住宅などに太陽光発電(PV)とエコキュートを無料で設置。宮古島未来エネルギーが「第三者所有(TPO)」として設備の所有や保守管理を担い、需要家には電気やお湯を従量料金で販売する。同社は、その販売収入と余剰電力を沖縄電力に売電して収益を得るというスキームだ。

宮古島の市営住宅の背後には、透き通った海が広がる

常時出力制限を実施 PVを安定した電源に

実証では、18年度に市営住宅40棟202戸にPV1217kW、エコキュート120台を導入した。PVの出力を安定させるため、日射による変動成分が多い高位出力帯をパワーコンディショナによる常時出力制限でカットして系統に送電する。出力制限をするものの年間発電量の約90%を確保できる。将来的にPVの設置規模が増えていけば、PVが安定した電源になり得ることが期待される。

また、PVの出力が高い時間帯にはエコキュートの稼働などに使用して、優先的に自家消費を行い、エリア内で有効活用する。それでも余剰となった電力は系統に送電する。この際、ネクステムズがエリアアグリゲーターとしてクラウド制御システムを使い、遠隔操作でエコキュートが稼働するタイミングを調整する。これにより、需要家の手をわずらわせることなく、再エネを最大限に活用しながら系統全体の最適化が実現する仕組みを構築している。

19年度、20年度と、徐々に設置規模を拡充して実証事業は継続中だ。FITに頼らず、自家消費をベースにした再エネ普及、また負荷調整による電力の低コスト化など、今後の成果が注目される。

PV余剰電力を系統に連系させる設備

累計出荷で700万台超 家庭用「蓄エネ」が普及

一方、昨年11月以降、FIT切れとなったPV、いわゆる卒FITに果たす役割も大きい。ヒートポンプ・蓄熱センターと住環境計画研究所、電力中央研究所が共同で行ったシミュレーションでは、PVの余剰電力で昼間に湯を沸かしながら需要家のエネルギーコストを最小化する制御を行ったケースにおいて、PV余剰電力を全量売電した場合と比較して15%の自家消費率向上を達成した。

自家消費率の向上は、PVの逆潮流が減ることで系統負荷の低減に貢献できる。卒FITユーザーにとっては、売電単価が買電単価よりも安価となる中、自家消費という有益な選択肢となる。
また、卒FITを契機に、PV電気を自家消費するニーズが高まり、蓄電設備として蓄電池や電気自動車(EV)が注目されている。

だが、定置用リチウムイオン蓄電池は、産業・業務・家庭用を含む累計出荷台数は約36万台(19年度日本電機工業会統計)。EVは国内保有台数で約11万台(18年度次世代自動車振興センター統計)と普及はまだこれからの段階だ。一方、エコキュートの累計出荷台数は、今年6月末時点で約703万台に到達している。つまり、「蓄エネ」設備がすでに多くの家庭に導入できているというわけだ。

今後、エコキュートを調整力として使っていくには、その制御が課題となる。というのも、現状ではストックの多くが深夜稼働に固定された仕様であるからだ。

こうした中、メーカー各社は新型機に制御可能なタイプを続々と投入している。パナソニックは、翌日のPV余剰電力が見込まれる場合は夜間に湯を沸かす量を減らし、その分を、昼間にPV余剰分で沸き上げる仕組みを導入。三菱電機は、HEMS(家庭用エネルギー管理システム)を活用しながら、天気予報と発電実績をもとに翌日分の沸き上げにPVを使うかどうか自動で判断して運転のタイミングを調整する機能を搭載した。

また、ストック機器であっても時計の設定をずらすことで昼間の稼働は可能だ。新電力のLooopは、この仕組みを活用した電力の買い取りサービスを展開する。卒FITとなるPVとエコキュートを所有する需要家を対象に、エコキュートの時間設定を9時間遅らせてもらうことで、昼間のPV電力をエコキュートの稼働で自家消費する。その上で、余った電気と供給した電気を相殺することで、実質、同社料金プランの従量料金単価相当で買い取るサービスを提供している。

再エネの大量導入時代を迎える中、系統負荷の低減に向けた自家消費や出力の安定化に向けた調整機能が欠かせない。「蓄熱」のさらなる活用が求められている。