【特集2】次代を見据えた燃料転換へ船出 大手電力が供給網づくりに注力

2024年9月3日

石炭への依存度が高いアジアの国々にとっても、既存インフラを活用できるアンモニア発電は脱炭素化の有力な手段となる。 同社脱炭素推進室の高橋賢司室長はアジア展開に意欲を示し、「各地域の事情や需要に応じ、よりCO2を出さない発電燃料に段階的に転換する取り組みを後押ししたい。最終的には脱炭素火力と再生可能エネルギーを組み合わせ、カーボンニュートラル(CN)に貢献していく」と力を込める。

とはいえ、選択肢の一つとして有望視されているアンモニア発電の普及に向けた道のりは平たんではない。大量のアンモニアを調達するというハードルが立ちはだかるからだ。

出所:経済産業省

4号機で1年間を通じて20%の燃料をアンモニアに置き換えた場合、年間約50万tが必要となるが、日本が輸入する量は同20万t程度に過ぎない。そこで、グローバル規模でクリーンなアンモニアを低コストで安定確保するための供給網を構築(図参照)しようと、仲間づくりに力を入れている。

脱炭素燃料の調達から利用促進にいたる一連の体制づくりが途上にある中、政府も必要な環境整備に乗り出した。脱炭素電源への新規投資を促す「長期脱炭素電源オークション」が動き出したほか、5月には製造時のCO2排出量が少ない低炭素水素の供給や利用を促す「水素社会推進法」が国会で成立。水素を製造・輸入する企業の事業計画を政府が認定し、既存燃料との価格差分を補助する計画だ。

全国に広がる多彩な事例 政府による環境整備も進む

こうした追い風を背景にJERA以外の電力各社も、CN社会を見据えた取り組みの舞台を広げている。

北海道電力は、発電部門における30年のCO2排出量目標(13年度比50%以上低減)の達成と50年の排出ゼロ実現を目指し、水素とアンモニア、そしてCCUS(CO2の回収・貯留・利用)に関わる取り組みを着々と進めている。

アンモニアでは、苫東厚真発電所4号機(石炭、定格出力70万kW)において、30年度をめどに20%(熱量比)を石炭からアンモニアに転換するべく準備を推進中。また、稼働時期を従来予定の34年から30年に前倒すことを決めた石狩湾新港発電所2号機(LNG、計画出力56万9400kW)は、将来の水素混焼が前提だ。いずれも、23年度に実施された長期脱炭素電源オークションの初回に応札し、落札した。

道内全体を支えるエネルギーのCN化に必要な供給網の拠点として大きな期待がかかるのが、苫小牧地域だ。4月には北海道三井化学、IHI、丸紅、三井物産、苫小牧埠頭の5社とコンソーシアムを組み、同地を拠点とするアンモニア供給網の構築に向けた共同検討を始めた。海外からの受け入れ・貯蔵・供給拠点の整備に加え、利活用先の拡大に向けた検討も行い、アンモニアの一大供給拠点としていきたい考えだ。

さらに北電は、出光興産、ENEOSと国産グリーン水素の供給網構築に向けた検討を、またJAPEX、出光とはCCUSに向けた検討に着手した。

北電火力部火力カーボンニュートラル推進グループの名兒耶大輝リーダーは、「苫小牧には工業地帯があり、アンモニア・水素の双方を供給でき、CCUSのプロジェクトもある。こうした条件がそろう場所は、世界的にも例がなく、まさに奇跡的な地域だ」と語り、北海道に企業を誘致する上で大きなインセンティブになると見る。

バーナーの「のぞき窓」から見える炎

関西電力は、政府がCN実現に向けて創設した新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)のグリーンイノベーション基金(GI基金)事業に採択された「既設火力発電所を活用した水素混焼/専焼発電実証」に取り組んでいる。姫路LNG火力発電所(兵庫県姫路市)での水素発電の実現に向けたプロジェクトで、水素の受け入れ・貯蔵からガス化や発電に至るプロセスについて実証することが狙い。関連企業などと連携して25年の実証開始を視野に、実現性やコストなどの観点から評価を進める計画だ。

水素は燃焼速度が早いため、燃焼器の火炎が逆流する「逆火」が起こりやすいほか、NOXを抑える課題にも対応する必要がある。そこでGI基金の実証では、三菱重工業が30%混焼する試験を実施中だ。こうした混焼が発電所に導入可能なのかを確かめたい考えだ。

課題は需要創出とコスト 試される官民の連携プレー

愛媛県今治市では、国内有数のLPG受け入れ供給拠点「波方ターミナル」をクリーンエネルギー供給拠点とするための検討が進められている。

主体は、昨年6月に発足した三菱商事と四国電力を共同事務局とする「波方ターミナルを拠点とした燃料アンモニア導入・利活用協議会」。すでに愛媛県や今治市をはじめとする自治体もオブザーバーとして参加し、需要規模の想定に加えて設備やコスト面からも具体的な検討を重ねてきたという。既存のLPGタンクをアンモニアタンクに転換し、30年までに年間約100万tのアンモニアを取り扱うハブターミナルにすることを狙う。 政府は、50年に国内で年間3000万t(水素換算で約500万t)のアンモニア利用目標を掲げた。その達成に向けては、大規模な燃料需要の開拓と対応する供給網の形成を同時に進めることも急務で、電力関係者は「需要と供給が一体となった環境整備が鍵を握る」と口をそろえる。脱炭素燃料のポテンシャルを引き出す日本勢の挑戦が、いよいよ本格化する。

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