根拠となった第3条第3項 科学的な議論だったと言えるのか
【論点】敦賀2号機を巡る規制委判断を検証/奥村晃史・広島大学名誉教授
原子力規制庁は、敦賀2号機が設置許可基準規則に不適合と判断した。
この根拠となった第3条第3項に関わる今回の判断を検証する。
日本原子力発電・敦賀発電所2号機の新規制基準適合性に関わる審査を2015年から続けてきた原子力規制庁は、7月31日の原子力規制委員会において、設置許可基準規則に不適合とする審査結果を報告した。8月2日に開催された臨時の原子力規制委員会では、日本原電から追加調査を行って審査を継続することが要望されたが、規制委はこれを認めず、審査結果をまとめる方針が確認された。日本原電には再申請の途が残されているが、現状では敦賀発電所2号機の再稼働はできない。
議論の焦点となったK断層 原電の総合的な判断は妥当
不適合とされた理由は、2号機建屋の北約300mで見出されたK断層が原子炉建屋まで連続する可能性(連続性)と、K断層の最近12万〜13万年間の活動(活動性)が否定できないことから、将来変位を生ずる恐れが認められたことにある。その根拠となる設置許可基準規則第3条第3項は、「耐震重要施設は、変位が生ずる恐れがない地盤に設けなければならない」とされている。
原子炉建屋直下の破砕帯とK断層については、12年〜14年に原子力規制委員会が行った敦賀発電所敷地内破砕帯の調査に関する有識者会合でも議論され、今回と同様の結論が出ていた。この有識者会合の結論は、新規制基準適合性に関わる審査の前提とはならず、審査の中で検討が行われてきた。
東北電力東通原子力発電所と北陸電力志賀原子力発電所の敷地内破砕帯についても有識者会合は将来活動する可能性があることを結論したが、その結論は新規制基準適合性に関わる審査で否定され、再稼働を妨げる条件にならなかった。
日本原電はK断層の連続性と活動性を否定し将来変位を生ずる恐れはないことを主張するが、原子力規制庁の新基準適合性審査チームが連続性と活動性が認められる可能性を否定できないと結論づけ、規制委はこの結論により日本原電の主張が全面的に否定され、その判断は科学的で合理的だとしている。審査結果は7月31日開催の規制委の資料2にまとめられた。同資料を基にその妥当性を考えてみたい。
K断層の活動性に関わる議論の焦点は、断層によって変位を受けている③層と呼ばれる地層と③層を覆って変位を受けていない⑤層下部の年代推定にある。③層が12万〜13万年前より古く、⑤層下部が12万〜13万年前であれば、K断層は12万〜13万年間に活動しておらず、将来変位を生ずる恐れがないといえる。審査結果は⑤層下部が⑤層上部の堆積した10万年前前後に再堆積したことを否定できず、12万〜13万年前より新しい可能性があるとしている。一方③層から報告されている13・3万年(誤差0・9万年)より古いOSL(光ルミネッセンス)年代測定結果は、誤差範囲からみて③層が12万〜13万年前の地層である可能性を否定できないとしている。
地層の年代を推定するための個別のデータには火山灰層の再堆積の認定や、年代測定値の誤差のように、必ず不確かさが含まれている。科学的な年代推定は、不確かさをもつ多数のデータを合わせて検討し総合的に判断することにより実現できる。日本原電の審査資料には膨大なデータが取りまとめられ、規制基準に関わる活動性がないとする判断はそのデータに基づく総合的な判断として妥当である。
例えば、⑤層下部には12・7万年前の火山灰が含まれOSL年代は12・6万年(誤差0・5万年)前である。再堆積があった場合、この年代が再堆積の年代である。
③層と⑤層下部との間には顕著な侵食が起きており、寒冷で低海水準の時期に起きた侵食の開始は遅くとも13万年前で③層の堆積は13万年前以前である。12・7万年前の火山灰層はこの不整合面の直上に一次堆積している。③層を13・3万年(誤差0・9万年)より古いとする年代値は、OSL年代測定法による測定限界より古いことを現しており、誤差は年代の不確かさではない。
科学的な議論にならず 原電の主張を否定するため
このように、科学的・総合的な判断から導かれる地層の年代に対して、審査チームは一貫して個別データに含まれる正負の不確かさのどちらか一方だけをとって、活動性がある可能性を否定できないと結論づけている。これは科学的な議論ではなく、日本原電の主張を否定するための議論にすぎない。地質学に不可避な個別データに不確かさがあることを理由に、科学的・総合的な判断が否定されることを防ぐ方法はない。設置許可基準規則第3条第3項に関わる検討では、可能性が否定できない、として疑わしいものは危険とする判断が常態となっている。
現存する原子力重要施設は立地の際、施設下の断層や破砕帯の活動性を現行の規制基準に照らしては考慮していない。事前の調査で活断層がないことは確認されており、建設のために表土と表層の岩盤は取り除かれている。そのような既存施設に設置許可基準規則第3条第3項を適用して安全の証明を求めることは、事業者にとって非常に大きな負担となっている。
敦賀発電所2号機の審査では再稼働を許可しないことを目的に第3条第3項が利用されているように感じるのは筆者だけだろうか。