【特集2】HPが脱炭素化の「現実解」に 市場拡大への環境整備が急務
HPは、空気熱の賢い利用で家庭の省エネ対策を強力に後押しする有効な手段。
国内産業の競争力を高めるためにも普及に向けた取り組みが不可欠だ。
カーボンニュートラル(CN)を需要側から促す機運が高まり、化石燃料を燃やさずに空気中の熱エネルギーを集めて空調や給湯などに利用する技術「ヒートポンプ(HP)」が、家庭分野の省エネ対策として日に日に注目を集めている。こうした中、今夏にHPや蓄熱システムの普及拡大に向けた提言書をまとめたヒートポンプ・蓄熱センター(東京都中央区)を取材し、「CN実現の切り札」として広がる可能性を探った。
50年度視野にCNへ貢献 CO2削減効果を引き出す
HP市場は、燃焼機器との比較で優位性を発揮し、中長期的な成長が期待されている。同センターによると、家庭用HP給湯機のストック台数は、2022年度に推計747万2
000台に到達(図参照)。HPが最大限普及する高位シナリオでは、35年度に2714万1000台に達成すると推算した。50年度には3651万1000台に達する。市場拡大に伴い、CO2の20年度比削減量も右肩上がりで推移。政府が目指すCNの達成年次である50年度には、5250万3000t規模のCO2削減効果が得られる見通しだ。
HP給湯機が住宅のCN対策に発揮する実力は、同センターの試算結果をみると明白だ。試算は、1kW時を発電した際に発生したCO2量を示す「CO2排出係数」を設定し行った。
30年度のCO2排出係数を0・250kg/CO2kW時(全電源平均)とし、太陽光発電(PV)パネル付き戸建て住宅に備えた各種給湯機を比べると、オール電化住宅のHP給湯機で昼に沸き上げるケースの年間のCO2量が最も少なく931kgとなり、他の給湯設備を大幅に下回った。
沸き上げ時間を、再エネ発電量が多く、かつ夜間よりも外気温度の高い昼間に移すことで、CO2削減効果を引き出せるというわけだ。また、集合住宅でも、HP給湯機「昼沸き上げ」住宅が優位な結果となった。
トータルコストでも、HP給湯機に軍配が上がった。20年度の試算(CO2排出係数0・441kg)をPVパネル付き戸建て住宅でみると、ヒートポンプ給湯機「昼沸き上がり」住宅のコストが一番低かった。
同センターは6月にまとめた提言書で、こうした強みを持つHPを「需要側の脱炭素対策の切り札」(業務部)として普及させる必要性を強調。再生可能エネルギーの大気熱を利用できるHPの利点にも触れるとともに、再エネの利用拡大をエネルギー安全保障につなげる方針も盛り込んだ。蓄熱槽を生かしてレジリエンス(強靭性)を向上させるという役割も重要になるとの認識も示した。
その上で、対応方針を整理した。一つが、政策や施策にヒートポンプ・蓄熱システムの普及拡大に向けた方向性を明確に反映するという要望だ。具体的には、次期エネルギー基本計画に「需要側(家庭・業務・産業用)へのヒートポンプ導入」を重点施策として明示することを求めるとともに、新築建築物へHP機器・システムの設置準備が施されるよう必要な法整備を施す対応なども要求した。
さらに、HP・蓄熱システムの導入コストを削減する課題にも言及。初期投資費用調達時の金利優遇措置を設けて消費者側の導入障壁を下げることに加えて、HP製造事業者向け税制優遇措置を用意して機器本体価格の低減や国内製造の機運醸成につなげることも明記した。
浸透余地のある寒冷地 技術や人材面の支援重要
地域的には、特に普及に課題を抱えている寒冷地で、建物の断熱性能が低いことを要因にHPを選ぶ可能性が狭まっていることを問題視。こうした現状を打開するため、断熱性能の向上に向けた技術支援対策を講じていく方針も示した。寒冷地で表面化する施工業者の不足問題も取り上げ、施工人材を育成する対策も求めた。
HPを柔軟に活用できる環境づくりも重視。消費者が電力使用量を制御する「デマンドレスポンス(DR)」に対応した機器開発が円滑に進むよう、電力事業者とメーカーが連携することを求めた。HPが優先的に選ばれるよう特性や利点の認知度を高める課題も投げかけた。
HP技術で世界をリードしてきた日本の機器メーカー。国内産業の競争力を強化するためにも、官民一体でHP市場を拡大する対応が急務だ。業務部は、「CNを確実に達成していくためにも、すでに技術が磨かれている『現実解』のヒートポンプを普及させたい」と意欲を示している。