【特集2】名産のミョウガとシシトウづくり 地下水HPで農業のエネコスト削減
高知県須崎市が環境省「脱炭素先行地域」に選定された。
栽培用ハウスに先進的な仕組みを導入し地域課題も解決する。
【須崎市】
高知県須崎市は、環境省が2023年4月に公表した「第3回脱炭素先行地域」の対象として選定された。その一つが、設備更新に合わせて331棟の農業ハウスに利用してきた空冷式ヒートポンプ(HP)を「地下水熱利用のHP」に置き換えるという取り組みだ。
特産品であるミョウガとシシトウは、育成にハウス栽培による加温が必要で、消費するエネルギー量はトマトの2倍に及ぶ。地元の農協「JA土佐くろしお」は、約10年前に重油ボイラーからHPに約1000台切り替えた。この設備の更新時期が迫っており、従来のHPでの課題を克服できる新たな設備導入の検討を始めた。
同市などが出資する地域新電力、高知ニューエナジーの廣見哲夫社長は「重油からHPに切り替えてエネルギーコストを10分の1に削減した。現在の物価高、円安、国際情勢の不安定化など、将来のエネルギーコストに不安がつきまとう。さらにコスト削減を図る方法を考えなければならなかった」と、設備更新の考えを語る。
2台を先行導入し実証 農業関係者から集まる熱視線
従来設備のCOP(エネルギー消費効率)は、3。1の消費電力に対して、3の熱を生み出せる。しかし、12~3月の加温が必要な時期にこれが2に落ちてしまう。霜取り運転も欠かせない。そこで、目をつけたのが地下水利用のHPだ。15℃程度の安定した冷水によって霜取り運転が不要となるほか、COPを4に向上できる。今回、脱炭素先行地域に選定されたことで、まず2台の地下水利用のHPを導入し実証中だ。地下水を利用する場合、安定した水の確保が必要となる。
冬場の須崎市は降水量が少なく安定した地下水を得ることが難しい。また、地下水はいったん汲み上げてしまうと、水温が下がってしまう。この対策として蓄熱槽を設けることにした。廣見社長は「蓄熱槽の運用にも工夫が必要。さまざまな運用方法を試して実用化していきたい」と意気込む。
今回の実証は、他県の農業関係者からも関心を集めており、視察に来るとのことだ。地下水利用HPが農業分野の脱炭素化において切り札になるかもしれない。