【特集2】熱を賢く利用する視点が重要 電力ガス業界はCNで競争を
業界全体でエネルギーリテラシーを高めるべきだと指摘する。
エネルギー利用の現状や脱炭素に必要なことなどを聞いた。
【インタビュー】小野田弘士/早稲田大学理工学術院大学院環境・エネルギー研究科教授
―現場におけるエネルギー利用の現状をどのように考えていますか。
小野田 これまで「電力vsガス」の構図でヒートポンプ(HP)やガスコージェネレーションシステムが導入されてきました。ホテルや病院、大きな工場など一定規模の熱を使う現場でのコージェネ導入は合理的です。過去に民生・業務施設で、コージェネ導入の実態を調査しましたが、排熱を有効活用していないケースがありました。その事例では、熱用途によってはHP導入の方が合理的です。
一方で地域や需要家側のニーズなど事情はさまざまです。寒冷地なのか、ガスインフラは整備されているのか、光熱水費はどうなのか。ユーザーは電力とガスを併用したBCP(事業継続計画)を求めているのか。それぞれの事情を勘案し、事業者が最適なソリューションを提供するべきです。
―そうした取り組みで大切なことは。
小野田 特にまちづくりや再開発、工場誘致といった大規模な事例を手掛ける時、電気利用の最適化のみを考えることが多いですが、電気以外のユーティリティーである熱利用にも注目すべきです。HPの話題が出る時に「電化」という言葉を耳にします。そうではなく「熱を賢く使う」という視点が大切です。そのツールとしてHPは重要です。ただ、ガス会社が手掛けてきた燃焼技術や燃焼機器、エネファームなどを否定しているわけではありません。電力とガスの両業界が互いの揚げ足を取るような議論は生産性があるとはいえません。お互いカーボンニュートラル(CN)に向けハイレベルな競争を進めることを期待しており、将来のエネルギーインフラの在り方を示してほしいと思っています。
―CNを見据えた家庭用の取り組みで必要なことについても教えてください。
小野田 「オール電化住宅にすれば実現できる」と言う方が多いと感じています。言いたいことはわかりますが、消費者が必ず電化を選択するとは限りません。戦略的にオール電化を手掛ける住宅デベロッパーも存在しますが、ガス併用にするか電化にするかは、基本的には消費者に選択権があります。消費者が住宅を選ぶ時、家賃や駅からの距離、買い物がしやすいかで選びます。エネルギーコストはまだしも、CO2排出量の多寡による優先順位は高いとは限りません。不動産や工務店などの住宅に関係する人々とエネルギーリテラシーに関する共通認識を醸成する必要があり、それらを通じて消費者もエネルギーに関心を持つようになると思います。