【特集2】地域課題を解決に導く立役者 独自戦略で住民との接点拡大
小出 私は社会人を京葉ガスでスタートし、08年に越後天然ガスに入社しました。当時、役所のような企業体質で驚きました。新築のオール電化率が7割超にもかかわらずガス会社は一生安泰だという雰囲気でした。その後、私が社長になり、率先して行政や区域の人とコミュニケーションを取るようになりました。そうした人たちが当社に訪れるようになると、社員の目が変わりましたね。
そうした中、新潟市秋葉区とは、環境問題などの理解を深める目的で「秋葉区みらい会議」を創設しました。行政と商工会議所、民間会社の連携は当社が日本初とのことで、さらに地元の市民、銀行、大学も一緒になり会議を行っています。
秋葉区役所の使用電力を当社が落札した際には、区役所に売り上げを全額寄付し、その分、市民サービスを安く充実してもらうことにしています。市民サービスを手厚くして住みやすいまちにしたいと思い、官民一体で取り組む必要があると考えています。
その一環で、秋葉区役所中心に、周りの施設に熱導管と自営線を引いて全てをつなぎ、電気と熱を融通するコンパクトグリッドに取り組んでいます。省エネや光熱費を削減し、行政の財政圧迫を防ぎ、軽減分を市民サービスに還元できないか検討してきました。補助金の活用を考えながら、コンパクトグリッド構築に向け、いつゴーサインを出そうかというタイミングです。
こうした取り組みで光熱費を安くし、環境にも良いことがPRできれば、地域を良くすることにつながるし、企業誘致にも貢献できます。結果的に人口が増えて地域が活性化することで、ガスや電気の使用量を増やしたいと思っています。
緑川 LPガス供給事業で千葉県いすみ市と連携しています。関電工やアストモスエネルギーと、いすみ市役所周辺で地域マイクログリッド事業にも関わっています。災害時には系統から切り離し、LPガス発電とPV、蓄電池で自立し、平常時には中学校の電力ピークを抑制するというシステムです。LPガス発電設備には、アストモスエネルギーが調達したカーボンニュートラルLPガスを使い、当社はこのガス供給で関わっています。
そのほか、CO2削減分のクレジットの取り組みでは、市所有の森林の使用に対して交渉を現在進めています。また、グループ全体としては、いすみ市沖の洋上風力発電の環境影響評価書に名前を連ねています。
また、地域脱炭素に向けた取り組みとして、東京ガスとともに八千代市と協定を結んでいます。過疎地域においても、茂原市や大多喜町とも同様の協定を締結しました。具体的な取り組みとしては、地域の設備を使ってのPPA(電力購入契約)の実施や学校でエネルギー教育などを検討中です。
エネファームで停電対策 持続可能な社会づくりへ
―千葉県は19年の台風被害で大規模停電を余儀なくされました。有事の際に威力を発揮するマイクログリッドに、期待が集まっていると思います。県は、停電対策への感度が高いと言えるでしょう。
緑川 19年の台風では、当社供給エリアの市原市のゴルフ練習場の鉄柱が倒れる災害が発生しました。そこは現在、分譲住宅地です。こうした動きをきっかけに、停電対策を考慮した住宅に(家庭用燃料電池の)エネファームを導入する動きが広がっています。
―持続可能社会を見据えた取り組みはいかがでしょうか。
緑川 まずは、国産天然ガスを50年以降も使用し、同時に産出されるヨウ素の製造を続けたいと考えています。ヨウ素は医療用ではCTなどの血管造影剤に使われており、代替不可の世界的に希少な資源です。ヨウ素の国際需要は毎年2~3%ずつ増えており、世界有数のサプライヤーとして、供給を絶やせません。一方で、新事業としてカーボンクレジットの活用を検討中です。海外での取り組みを視野に入れながら、クレジットの取引規模を拡大するため、アジアで活躍できる人材の育成を始めたところです。
小出 人口減少対策として、地産地消エネルギーの導入や地域コミュニティーのスマートグリッドによるエネルギーのベストミックスを進めています。またサステナブル経営を打ち出し、自由化によって大手や外資系企業が攻め込んでも、会社を50年、100年持続させると宣言しました。人が増えるような市民サービスにつなげ、コンパクトグリッドの構築や地域との連携をPRして、当社のファンを増やすようにしています。
澤田 震災後に導入した重油ボイラーなどの産業用設備が交換の時期となり、重油からガス転換への引き合いが何件かあります。30年までの期間は更新時期に合わせ、ガスへの転換を提案していこうと考えています。それ以降は、脱炭素先行地域にどう結びつけるかが課題です。