【特集2】 LNG活用が現実的な選択肢 革新技術の実装に向け前進
都市ガス大手はCNの実現という世界的な潮流に乗って、天然ガスを液化したLNGの事業拡大を目指している。各社がその展開で訴求する優位性の一つが、環境負荷が小さい点だ。化石燃料の中でもLNGは、石油や石炭と比べて燃焼時に排出するCO2などの量が少ない。
すでに輸送から需要に至るインフラが構築されていることも強みで、LNGの活用に向けて巨額の投資を行う必要がない。さらに、中東情勢の影響を受けやすい石油と比較して地政学的なリスクも低く、輸入元の多様化によって供給の安定性を確保しやすい。
用途を拡大しやすいという利点も備える。発電分野を幅広くカバーしていることに加えて、都市ガス原料として多くの熱需要にも対応。需要家はこうした点を踏まえ、エネルギー供給の大原則を表す「S+3E(安全性+安定供給、経済効率性、環境適合性)」をバランス良く満たす現実的なエネルギー源として再評価している状況だ。
LNGが入り込む余地が大きい分野の一つが、脱炭素化が急務となっている産業部門。電化が難しい高温の熱分野などで、LNGが貢献する機会が増える方向にある。
快適な室内環境を実現しながら建物で消費するエネルギーをゼロにすることを目指す「ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)」を広げる機運が高まる中、建物の脱炭素化対策を支えるLNGの役割にも注目が集まっている。今後は、ガス空調やガスコージェネレーションシステムなどを生かしたZEBの先進事例も増えそうだ。
野村総合研究所サステナビリティ事業コンサルティング部でチーフコンサルタントを務める稲垣彰徳氏は、CNの達成という課題に直面する産業界の動向を概観しながら、「全方位で環境対策を進めてきた先進企業が脱炭素化の手段を見極め、どの手段を優先的に活用すべきかを考え始めた。ガスはその現実的な選択肢の一つになる」との見方を示した。その上で「CO2排出量を下げる入り口の手段とし、石油や石炭を排出原単位が低いガスに転換する取り組みが有効だ。地域に環境にやさしい燃料を供給する意義は大きい」とも強調した。
一方、ガスの脱炭素化を促す新たな手段として有望視されているのがメタネーションだ。政府は、2050年に都市ガスの9割を合成メタン(e―メタン)に置き換えるという目標を掲げている。日本ガス協会は、年間で約8000万tのCO2削減効果があると試算。これは、日本全体のCO2排出量の1割弱に相当するだけに、脱炭素化への効果は大きいと言える。
割高な製造コストが課題 海外からの輸入も不可欠に
ただ、合成メタンは製造コストが都市ガスより数倍高く、社会実装に向けた道のりは険しい。稲垣氏は「国産の合成メタンやバイオガスだけで都市ガス需要全てをまかなうことには限界がある」とした上で、「合成メタンの場合、原料となる再生可能エネルギー由来水素のコストが相対的に安い海外で生成した合成メタンを国内に輸送するといったサプライチェーンの構築のために、適地での上流開発が重要だ」と課題を投げかける。
日本は30年度に温室効果ガスを13年度比で46%削減する野心的な目標も狙っているが、その達成に向けた取り組みの遅れが指摘されている。世界の脱炭素市場を巡って日本のプレゼンスを高めるためにも、業界を後押しする環境整備が政府に求めらる。次頁で、東京ガス、東邦ガスの取り組みを紹介する。
1 2