働きがい向上に向けて 対話で見えた現場の悩み
【電力事業の現場力】東北電力労働組合
事業所の統廃合など効率化に注力する中、社員はどんな苦労を抱えるのか。
働く人の声に耳を傾け経営側に届けるのが労働組合の重要な役割の一つだ。
揺るぎない安定供給と競争力の強化─。電力を取り巻く事業環境の複雑性が高まる中で、東北電力グループでは人的資本の強化が急務となっている。
東北電力グループは4月、2030年までの中長期ビジョンの後半期を前に、今後の経営展開として「よりそうnext+PLUS」を策定。持続的な事業展開を支える経営基盤を強化するため、「CN戦略」「DX戦略」と並んで「人財戦略」に注力する姿勢を打ち出した。採用、育成、配置、評価、処遇といった人財マネジメントサイクルの実効性を高め、特に採用と育成を強化するという。
いま現場では、エンゲージメント(働きがい)の向上が課題となっている。東北電力労組は毎年、「フレンディ・コロキウム」と題した対話活動で、現場の声を聞いて回る。今年はテーマの一つに「エンゲージメント向上に向けた取り組み(働きがい、働きやすさ、能力伸長)」を掲げ、143カ所の事業所を回り1457人の意見を吸い上げた。
人材育成については、現場の悲痛な悩みが浮かび上がってきた。「職場人員が減少することで、人材育成の時間が確保できない」「どの部門も時間外労働が高止まりする中、中間管理職がプレイングマネージャー化している。部下への教育などに影響がある」「効率化を追求してきた結果、仕事の理念や本質を継承しづらくなった」―。また採用・離職の問題も影響し、事業所の年齢構成のバランスも課題だという。斎藤和喜書記長は「近年の職場は、組織整備などの環境変化への適応で手一杯であり、人材育成がままならなかった感がある」と分析する。
働き方改革の難しさ 仕事の魅力発信を
働きやすさの点では、働き方改革の難しさが赤裸々に語られた。「職場人員が限られる中で、土日の配電線事故対応では若年層の独身者の対応頻度が高い。採用数を増やすなど改善を求めたい」「各種制度は整備され働きやすくなったが、人員不足などの理由から、一部制度の利用をためらってしまう」「男性の育休はどんどん取得してもらいたい。時間外を前提としない働き方を実現し、職場の余力を生み出していかなければ」―。
若年層はプライベート時間の充実や転勤のない働き方を重視する傾向があるが、事業特性を考えると全て応えることもできない。社員エンゲージメントの向上には、きつい仕事や環境に対する手当、働く環境の充実なども有効な手立てだ。
電力会社に対する世間の目は依然厳しい。それでも東北電力グループで働く社員が、人々の生活に欠かせないエッセンシャルワーカーであることは変わらない。対話活動ではグループの魅力向上に向けた施策の拡充を求める意見も見られた。「災害復旧への対応など誇れる点はたくさんある。アピールできる部分はもっと積極的に発信すべき。それが働きがい、自信の創出につながる」
斎藤氏は「電力事業は競争力と高い公益性を求められている特殊な事業。だからこそ、自分たちの手で自分たちにふさわしい人財戦略を見つけていく必要がある」と熱を込める。対話活動では、春闘の好結果に対しての感謝の声も聞かれた。これからも東北電力労組は「いつの時代も企業は人なり」を肝に銘じて、職場との対話を重ねていく。