「災害復旧指揮車」を初導入 拠点の始動迅速化で支援に集中
【中国電力ネットワーク】
能登半島地震の復旧支援に初出動し、活動の指揮を執る現地拠点を迅速に立ち上げた。
積み重ねた経験をもとに多様な災害規模に応じた車両導入計画につなげる。
中国電力ネットワークは、2023年3月、他の一般送配電事業者に先駆けて、災害復旧指揮車(DREC:Disaster Recovery Command vehicle)を配備した。大規模災害時に速やかに出動し、被災地の復旧活動を指揮する拠点として機能する。
同社でDREC導入に向けて中心的な役割を担ったのが、配電技術部配電工法・安全グループの佐伯豊副長だ。これまでさまざまな災害現場に駆け付ける中で「最も大切なのは、復旧活動の指揮命令を統括する現地拠点が一刻も早く始動すること」と語る。支援に当たる多くの作業班が集まってきた際に、系統立った指示を出せる現地の司令部を確立していることが、復旧活動に不可欠であり、最重要であることをこれまでの経験から感じていた。
観測史上最大級の勢力で関東地方に上陸し、千葉県を中心に甚大な被害をもたらした19年9月の台風15号。気象庁がのちに「令和元年房総半島台風」と命名したこの災害でも、佐伯副長は現地で対応に当たった。当時は自分たちの現地拠点を確保するために施設の会議室を借用したり、必要な資機材をレンタルするなど、現地拠点の設置に多くの時間を要した。さらに、現地の復旧状況により拠点の移動が必要であったため、移動のたびに拠点を再設置する必要があるなど、効率的な活動を行うことが難しかった。「こうした反省を踏まえて、広島に帰ってからも、自分たちの支援のあり方についていろいろ考えていました」と振り返った。
そしてその1カ月後、死者100人を超える大惨事となった台風19号が東日本に甚大な被害を与え、佐伯副長は再び災害現場に向かった。この時は1カ月前の教訓をもとに、拠点設置に必要な資機材を携行していたのだが、資機材の車両積み込みなどの事前準備に約1日を要した。エアテントで設営した現地での拠点設置においては、電源確保や空調設備の設置に加え、天候対策など執務環境の整備に課題があった。また、通信環境が整っておらず、指示内容を紙出力できずに口頭連絡となるなど、正確な情報伝達が難しい状況にもあった。
この二つの台風の災害復旧支援の経験から、車両本体に拠点機能を付加することで、出動要請があれば、その車両で現地入りし、復旧活動をすぐに開始できるのではないかと思い、DREC導入に向けて本格的な検討をスタートさせた。
正確な情報伝達可能に 平時は広報活動に貢献
自然災害の頻発化、激甚化が一層進んでいる。これまでにもあった台風や大雪などに加えて、近年では、豪雨などで毎年被害が発生している。出動要請の増加が今後も想定される中、検討開始から約3年後の23年3月、DRECは同社配電技術部配電工法・安全グループ(広島県安芸郡坂町)に初配備された。24年元日の能登半島地震に初出動。現地拠点を迅速に立ち上げ、支援体制を整えることができた。従来であれば、極寒の屋外でテントを張らなければならなかったが、今回はボタン一つ、わずか3分で車両を拡幅でき、15分程度で活動拠点が完成。復旧活動に携わる作業員の労力軽減と復旧支援への集中につながった。
また、DREC内にWi―Fi設備を設置し、社内セキュリティーの要件を満たすパソコンの利用環境を整えることでプリンターが使用できるようになったことに加え、複数の映写モニターを備え付け、関係箇所との連絡や調整などにおいて効率的で正確な情報伝達を行うことができるようになった。
さらに、精神的なタフさが求められる災害復旧支援活動の現場で、DRECの存在は心の安心感にもつながった。厳寒期の積雪の中で、復旧作業員にとってDRECは居場所を提供し、再び被災現場へ発つための休息の場になった形だ。
出動がない時、DRECは広報活動にも貢献している。自治体の防災訓練や地域の防災イベントなどに展示することで、多くの人が実際にDRECの車体を見て、中に入って災害時の司令部を体感してもらう絶好の機会となっている。「DRECを導入する際には想像もしていなかったことですが、見学された方は、DRECを実際に自分の目で見て、その機能を体感することで、われわれ中国電力ネットワークに対して、安心感や信頼感を持ってくれるようです」と佐伯副長は語る。
能登半島地震の災害復旧支援活動では、土地の隆起などにより、大型車が通行できる道路に制限があった。そのため、今後はもう少しコンパクトなDRECがあれば、もっと迅速に細かい支援を届けられるケースもあるのではないかと考えている。現在の車体は約13tで運転には大型免許が必要だが、「中型免許で運転できるサイズの新型DREC導入を検討したい」と佐伯副長は語る。まずは現行のDRECで経験を積みながら、次世代の災害復旧指揮車の開発につなげていく。