【コラム/11月28日】地方創生戦略とその体制を考える~違和感伴走の10年

2024年11月28日

4、10年後の評価もため息

そして5年経過した。「地方創生10年の取組みと今後の推進方向」(内閣府地方創生推進事務局24年6月10日)を報告した。過去10年の努力を述べる。寸評すれば、地方創生は、道半ばなら結構だが、途切れもやむを得ない印象をもつ。

地方創生が目的とした人口減少の歯止め、東京圏一極集中是正、地域の住みやすい環境づくり等の実現には、程遠い状況である。それでも政策は続く。引き続き(残されたというより継続的な)10課題の克服を重要とした。以下である。1東京圏への過度な一極集中への対応、2少子化への対応、3地域の生産年齢人口の減少への対応、4地域資源を生かした、付加価値を高める産業・事業の創出、5地域における日常生活の持続性の低下などへの対応、6都市部と地方との連携機会の拡大、7大規模災害被害からの創造的復興に向けた貢献、8地方創生の取組みに悩みを抱える自治体へのきめ細やかな支援、9地方創生の取組みを加速化・深化するデジタル活用の更なる拡大、10地域・社会課題の解決に向けた規制・制度改革である。地方創生というお題目は、永続的に取り組む課題とも思えるが、地方開発という意味で「昔の名前で出ています」を彷彿とさせる。

10項目のうちに環境変化で追加課題(7災害と9デジタル)も見られるが、他は当初の課題の焼き直しである。そして難点は、10規制・制度改革である。抑もこれまでの規制緩和・改革が地方の活力を低下させたのではないか。必要な規制・制度改革だったのかという問題提起と検証が見られない。今回も地方開発という永遠の課題を追いかけているだけである。

この制度は、まち・ひと・しごと創生総合戦略に沿った地方公共団体絡みのアイデアに目を付けている。果たして地方公共団体が、抑も創生力を有しているだろうか。箱物は得意でも、産業政策は可能だろうか。民間企業の活力を引上げたであろうか。此れ等の評価が、5年目、10年目の改定作業に欠けている。


5、地方創生の施策とは何か

中央政府には、地域発展の知恵が無いので、各地域で地域発展の方策(ソフト、プロジェクト、基盤)を考案してもらいたい。考案するに当たり地域経済分析システムの協力を行う。もし必要な人材がいれば、国が人材支援を行う。その考案を国に申請しもらい交付金で支援する。地域の自主性尊重である。そして奏功していない。目標か方法か仕組みか、立付けに問題はないのか。

敗戦後各地方は、政府の取り上げが無くとも、各時代地方創生(地方開発)を延々と継続している。高度成長時代、低成長時代、バブル形成・崩壊・調整時期、日米経済摩擦後の21世初頭、そして今日の政策不安定・低成長時代と続く。日本経済の展開に合わせて地方自治体・地方経済界は、地域の発展に努力してきた。大都市以外でも自立する地域もあった。過去の知識で言えば、浜松、坂城町が代表例であった。やめまいかの静岡、やるまいかの浜松と言われた。坂城町は、薩摩の大提灯、信濃の小提灯だった。信濃は、個人主義が伝統的で、工業で働くひとに自立する人が多かった。地域開発の模範例だった。国の政策と関係希薄である。

(地方弱体化の施策が継続)

勿論日本経済全体が停滞している中、外の風が無く地域の柵を超えることは至難である。地方自治体がどのような行動をとれるか。常に国情・国勢・国政の影響がある。

90年代以降、為替レート変動に伴う産業競争力の変動・海外移転、地方分権期待の思い違い(99年機関委任事務廃止等)、地方開発担当官庁(経企庁、国土庁)の廃止・移管の対処能力劣化(全体俯瞰機能の低下・気軽な総合的相談・要望窓口の喪失)、規制緩和による地域関連事業(交通・石油業法・大店法等)の企業体力低下があった。例えば地方交通は、路線の縮小等悲惨な状況である。これらは国情無視の政府政策の問題である。その後も  財政運営における地方対応(三位一体改革)、そして地方のことは地方でという発想の蔓延があった。

地方開発は、永続的問題である。短期的な政治のスローガンに馴染まない。KPI(目標数値)、PDCA(計画・実施・評価・改善)は、思い付き施策の合理化の便宜的手法に見える。

過去の地方開発は、雇用効果を第一に掲げた。その意味で、他の目標は、付随的である。例えば経済的視点の目安で、一人当り県民所得は、最上位と最下位で2:1という考えがあった。3:1となれば、人口移動は必然である。その工夫が必要だった。地域間格差の決定要因として、距離の問題がある。遠隔地は、厳しい立地条件となる。それを解消する物理的インフラ整備も看過できない。国が行うことである。また地方政治の難しさもある。地方議会の利害が、地方行政、地方公務員に良悪の影響となる。その中立化として中央省庁の役割・政策があったことも事実である。地方が問題を持ち込む時、経済企画庁と国土庁は、前向きに全体俯瞰を可能とする立付けだった。地方開発の視点で考えると、従来の様々な地公体関連事業に係わる補助金行政を現交付金行政は改善したと言えるのであろうか。


6、何をすべきか

地方創生で目標とすべき課題は、雇用の確保・安定につきる。その目標は、国経済政策の目標と同一である。国でできないことを地方が実現可能だろうか。地方公共団体では困難な面がある。担当部署の衣替えと地方創生交付金でアイデア発掘・地域経済活性化等を狙う体制は如何であろうか。地方創生交付金の倍増で、喜ぶ地方もあろう。何よりも政治・中央政府の「やってる感」を演出する。地方のアイデア勝負の基本目標や基本政策は、財政の無駄使いを促進する。でも地域は変わらない。

地方創生でも地方開発でも、これまでの経験は、長期の取り組みを求めている。短期的な打ち上げ花火でなく、永遠の課題としての扱いが適当ではなかろうか。経済(含む民間企業・個人)を把握し、国土・地域全体を俯瞰し、各地域の状況を調査・分析し、必要な施策を策定する。又各地域の問題提起を受け止める。各地域にアドバイスを行う。且つ人事面では、各省庁出向者ばかりでない。そのような機能と仕組みを持った担当官庁(例えば経済・地域庁)を設置した方が地方にとって安心感を増すのではなかろうか。


【プロフィール】経済地域研究所代表。東北大卒。日本開発銀行を経て、日本開発銀行設備投資研究所長、新都市熱供給兼新宿熱供給代表取締役社長、教育環境研究所代表取締役社長などを歴任。

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