【特集2】充放電用途が家庭から産業へ拡大 社会課題解決の切り札として有望視
長期エネルギー貯蔵に注目 運用方法の選択肢広がる
2030年に向けては、系統用蓄電池の大規模な導入が見込まれるが、日々変動する短期断面の調整力として飽和し、数十時間分の電力を貯蓄して天候不順や季節変動ニーズに対応する長期エネルギー貯蔵(LDES)が求められるようになる。
産業・業務用蓄電池に目を向けると、電気料金の値上がりに備えて普及が進展。改正省エネ法により大規模需要家にデマンドレスポンス(DR)の実績報告が義務付けられたことも、蓄電池の導入促進につながっている。例えば、同蓄電池にPVの電力を充電し非常用電源として利用したり、電力を多く使う時間帯に放電し購入電力の最大量(ピーク電力)を削減したりする事例が増加。同蓄電池は、需給の状況に応じて電力料金を変動させるダイナミック・プライシングに対応した運用にも利用されている。
家庭向けの蓄電池は、卒FIT家庭や新設戸建て向けに、PVの余剰電力を充電し自家消費することで電気代を節約する目的で導入が進んでいる。
今後、電力小売事業者との連携を強化し、小売りの需給逼迫時に家庭用蓄電池を放電して系統からの電力需要を減らす経済DRや、市場連動型料金プランに合わせて蓄電池を制御することも増えてくる。また、26年度に制度として解禁される低圧リソースのアグリゲーションによる需給調整市場への参加も期待されている。
しかし、規模の小さな大量の家庭用蓄電池を監視し、制御するためのシステムや通信回線などのコストが大きな障壁だ。次世代スマートメーターのネットワークを活用し通信コストを削減するなど、社会課題を解決する基盤としていかに安価に整備するかが課題となっている。
EV車種の拡大や充電ステーションの普及を背景にEV購入者が増加。これに伴って車載用蓄電池も増える中、充電タイミングが集中して需給が乱れることが問題となっている。その解決策として電力小売事業者は、EVユーザー向けに深夜の安価な電力や市場価格に連動するプランを提供し、充電タイミングをうまく誘導する取り組みを進めている。
V2HやV2Gへの進化 競争力の原動力に育成
将来的には災害対策や系統安定化の一環で、車載用蓄電池の電力を住宅に融通するV2H(ビークル・ツー・ホーム)や、EVの電力を送電網に接続するV2G(ビークル・ツー・グリッド)の実現も望まれている。
蓄電池は、グリーントランスフォーメーション(GX)を実現するためのキーデバイスだ。蓄電池を個別最適に運用するだけでなく、通信技術やデジタル技術を用いて既存の電力システムに統合することが必要となる。
多様なプレイヤーを呼び込んで競争領域と協調領域を整理し、ビジネス面での成功と産業競争力の強化につなげることが重要だ。GXを実現する蓄電池ビジネスの進展に期待している。
たけうち・だいすけ 総合電機メーカー、日系ファームを経て、2019年にPwCコンサルティング入社。24年1月から現職。エネルギー制度調査やソリューション開発などに従事。
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