新たな企業価値創造へ 海外の森林ファンドに初出資
【九州電力】
九州電力は、CO2排出削減量100万tと、環境配慮や地域共生を志す豪州の森林ファンドに出資。
安定収益や社会貢献のほか、最先端の森林管理技術を習得・活用し国内森林事業の課題解決を狙う。
九州電力は昨年12月、オーストラリア・ニュージーランドで持続可能な林業、農業、および林業インフラや加工施設などの関連資産を投資対象とするファンドに出資する契約をNew Forests Pty Limited社(以下、ニューフォレスツ)と締結した。九州電力が森林ファンドに出資するのは初となる。
九電グループと森林の関わりは深い。古くは水力発電の水源涵養と電柱用材の生産を目的に、1919年に植林を開始。現在では4447ha(「みずほPay Payドーム福岡」630個分に相当)の社有林を管理し、木材生産や森林J―クレジットの創出支援・販売を行うとともに、地球温暖化防止や生物多様性保全などの森林の多面的な機能維持に貢献している。

また九電みらい財団は、次世代の環境保全意識の向上を目的に、九州電力の社有林「くじゅう九電の森(大分県由布市)」で環境教育に取り組んできた。こうした活動を九州各地に広めるため、22年から「九電みらいの森プロジェクト」を開始。第一弾の「いさはや九電みらいの森(長崎県諫早市)」に続き、24年からは「きりしま九電みらいの森(鹿児島県霧島市)」で、カーボンニュートラルの実現に資する活動として、地域との協働による環境教育や市民交流の場となる森づくりに取り組んでいる。
安定的な利回りが魅力 30年には市場規模1兆ドル
そもそも森林ファンドは、一般的にどのような仕組みで運用されているのだろうか。
まず、投資家から預かった資金を元に森林資産の取得・管理が行われる。そして森林を育て、伐採する。その後、伐採した樹木を加工して商品として販売することで得られる収益を投資家に還元する資産運用サービスだ。
1980年代にアメリカで黎明期を迎え、その後2000年以降、大学基金、企業年金基金、公務員退職年金、生命保険などの機関投資家の資金を元手に市場規模が急拡大している。世界の森林ファンドによる森林保有は00年時点では200億ドル(約2・2兆円)の資産規模だったが、13年に1000億ドル(約9・8兆円)を突破。10年強で5倍にまで拡大した。
森林ファンドは、株や債券などの伝統的な投資資産と比べ、相対的に安定的な投資リターンで推移している。このため近年、年金機構などの機関投資家は安定的な運用利回りを求め、森林ファンドへの投資を増加させている。世界の森林ファンドの市場規模は22年には約2850億ドルだったが、30年には3・5倍の1兆ドルに達すると予測されている。
ファンドを組成し運用するニューフォレスツは、オーストラリアのシドニーに本拠を構え、アジア太平洋を中心に事業を展開。三井物産や野村ホールディングスが主要株主として名を連ねる。ファンド運営会社は一般的には金融事業者であることが多いが、同社は森林管理や製材などを手掛ける事業会社としての基盤を持ちながら、森林に特化した資産運用を行う世界有数のアセットマネジメント企業だ。ICT技術とビッグデータ分析を駆使した先進的な森林経営や、木材流通から販売までを含めた事業を通じた収益最大化を志向しているのが特徴だ。
ファンドの名称は「New Forests Australia New Zealand Landscapes and Forestry Fund」。100万tのCO2排出量削減を目標に、環境配慮や地域社会との共生も重視した森林投資・管理を行うことを目指す。運用期間は23年12月~35年12月までの12年間。豪政府機関、欧州年金基金、豪保険会社などの大口機関投資家が出資している。九州電力がこのファンドに出資する理由は3つある。

森林管理技術を習得 国内林業の課題解決に活用
一つ目は、木材販売、土地売却などによるファンドからの安定的な収益の獲得だ。二つ目は、植林や作業機械の電化などによる社会全体のCO2吸収・削減への寄与。三つ目は、ニューフォレスツの最先端の森林管理技術・ノウハウを習得し、国内森林事業の課題解決に活用することを目指している。
特に、三つ目のニューフォレスツが有する最先端の技術やノウハウを日本国内の森林事業に活用する点については、大きな期待を寄せている。同社は、衛星データを活用して、樹木の植栽場所選定や生育管理を行っており、九州電力が保有する社有林などをより効率的に管理することが可能になると想定している。また木材流通においては、需要家のニーズ・市況をリアルタイムに把握し、それを基にタイムリーに森林作業者への伐採指示や製材所への木材加工指示を出すなど、日本にはない合理的なシステムを構築している。これらは、人材不足や地方経済の衰退など国内林業が抱える課題解決に、非常に有効だと考えられる。
同ファンドは今年1月にファイナルクローズを迎え、調達した資金は目標としていた6億豪ドル(約583億円)に達したことが発表された。地域共生本部の三浦健次郎・産業創生グループ長は「初めて森林ファンドに出資したことを大変うれしく思う。これは、持続可能な社会の発展に貢献するという当社の使命に沿った大きな一歩だと考えている」と力を込める。
日本において、これから本格的な展開が期待される森林ファンド。九州電力の第一歩が、森林経営や森林ファンド市場の発展にどのような影響を与えるのか、関心が高まる。