【コラム/6月20日】経済財政運営と改革の基本方針2025を考える~賃上げ一本とは
4、経済運営で大切なことは
経済運営で気になる流れがある。自民党内に「責任ある積極財政を推進する議員連盟」の減税や積極財政に関わる勉強会がある。それを支える証券系エコノミストの発言は、気宇壮大である。今次の物価・名目成長上昇を好機と捉え、積極財政、リフレ政策慫慂で、デフレ脱却、名目成長嵩上げ、株高期待を強弁する。そして財政規律緩和で60年償還ルール変更、コアプライマリーバランス(投資的経費を除外)を喧伝する。業界特有の我田引水の発言は、国債頼りの株高志向の経済運営再来を狙う。
今回基本方針は、賃上げ、成長等のほか、財政面で国債需給や財政余力の確保のため、財政健全化に取り組む姿勢を謳っている。正しい方向である。歳出拡大や減税により財政悪化を阻むため、減税より賃上げの基本的考え方を強調しているとすれば、政治的に極めて思慮深いと言えるかもしれない。そこが政界・政局の財政再建姿勢の限界でもある。
5、財政運営
基本方針は、財政運営関連も述べている。長いが引用したい。「経済あっての財政という考え方は、経済政策の基本的な立場であり、今後もこの方向性を堅持する。経済の主役は企業・個人の活力であり、新たな行動を実行に移す企業・個人を、政府が様々な政策ツールにより積極的に後押しすることで経済成長を実現していくことが望ましい姿であり、それを力強く進める中で財政健全化を実現していく。その際、民間企業の予見可能性を高めるため、重要政策に複数年度で計画的に取り組んでいく観点も 踏まえながら、EBPMによるワイズスペンディングを徹底し、成長と分配の好循環を拡大させる中で、歳出構造の平時化を図る」という。見事な作文である。
尤ものようにみえるが、財政拡張の言い訳を合理的に述べているとも言える。この文を熟考すれば、財政健全化は、将来の成長頼りになる。
経済の流れは、通常生産があり、そして所得が生まれ、その所得を必要なことに支出する。支出は、消費であり、設備投資であり、貯蓄であり、そして税金である。税金は、国民が必要とする国防・治安・社会資本や社会福祉サービスの財源である。特に成長を産む物でない。それを借金で賄えば、いずれ所得から返済は必要となる。借金は、返すことが基本である。故に経済あっての財政の意味が、不明である。経済の流れから、生まれる所得で返済できないような政府の借金額(累積債務)にならないように努めることは当然である。政府の借金で一時的な支出(需要)をできても、経済成長は抑も困難である。故に経済あっての財政の言葉をどのように理解すべきか混乱する。財政は、入りを量り出ずるを為すが基本である。現実の成長でなく、将来の机上の成長を当てにすることは如何か。
6、何をすべきか~節度こそ基本
現在の経済運営で強調すべきは、物価の安定に向けた金融政策、財政健全化に向けた財政政策(歳出と歳入の均衡)である。また経済健全化に必要な施策は、経済の基盤であるエネルギーの安定供給体制の混乱(公益事業体制破壊・自由化の失敗)解消、在来型産業の活性化を図る政策(ビジョンと必要技術開発支援程度)、新産業の源となる研究技術開発体制の充実(国立大学・研究所の再構築)、企業の活力を支える法制の見直し(証券市場牽引のコーポレートガバナンス規制廃止等)等である。
今日の基本方針に望むことは、賃上げによる物価上昇・停滞事象の立て直しでなく、物価安定・経済均衡を目標とする財政・金融政策であろう。常に日本経済の節度ある経済運営を望みたい。
【プロフィール】経済地域研究所代表。東北大卒。日本開発銀行を経て、日本開発銀行設備投資研究所長、新都市熱供給兼新宿熱供給代表取締役社長、教育環境研究所代表取締役社長などを歴任。
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