【コラム/7月11日】REPowerEUから3年

2025年7月11日

原子燃料のロシア依存低減

ロシアの原子炉(VVER)を稼働させているEU諸国は、ロシア産の原子燃料を他国産の燃料に置き換える取り組みを進めている。2022年以降、関係5カ国のうち4カ国の電力会社は代替燃料の供給契約を締結している。しかしながら、代替燃料に関しては、各国で試験と認可を受ける必要がある。また、世界的なウランの市場は広がりを見せているものの、転換・濃縮サービスが少数の企業に集中していることが大きな課題となっている。西側諸国の企業が稼働中の転換・濃縮施設の能力は限られているため、需要全体を満たすことが難しい状況にある。欧州における最初の新たな濃縮施設は2027年以降と予想されており、新たな転換施設の稼働は2030年代以降となる見込みである。さらに、EUの原子力部門は、スペアパーツや保守サービスの一部をロシアに依存している。将来の原子燃料関連サービスの需要を満たすためには、G7のような国際協力が不可欠である。


再生可能エネルギーの拡大

EUは、再生可能エネルギーの拡大を進めており、2024年時点で、EU全体の発電量の約半分(47%)が再生可能エネルギーで賄われている。業界の推計によると、風力発電および太陽光発電の設置容量は2021年から2024年の間に58%増加し、3年間で約380億立方メートルのガスを節約した。2025年には、設備容量がさらに16%増加し、これにより約160億立方メートルのガスの節減が見込まれている。欧州委員会は、簡素化された許認可手続きと投資拡大により、2030年までにEUのエネルギーミックスにおける再生可能エネルギーの割合を42.5~45%にするという目標の達成が順調に進むと見込んでいる(2023年時点で24.5%)。


REPowerEU ロードマップ

欧州委員会は、2025年5月6日、ロシアの石油・ガス・原子力エネルギーをEU市場から段階的に撤退させる「REPowerEUロードマップ」を発表した。それによれば、 EUは、2027年末までに、ロシア産ガスの輸入を完全に停止する。天然ガスに加え、ウランや石油の調達も段階的に廃止する。ロシア産ガスについては、新規契約やスポット取引に基づく輸入を2025年末までに禁止する。その後、パイプラインとLNG双方で、既存の長期契約に基づく輸入を2027年末までに禁止する。原子力に関しては、ロシア産のウランなどの核物質の新規契約に対する制限を導入する。石油に関しては、2027年末までに、スロバキアとハンガリーにおけるロシア産原油の残りの輸入分を、他の供給源からの調達に転換するように促す。また、制裁状況下でロシア産原油を密輸する「シャドーフリート」への制裁措置を発動・継続していく。欧州委員会は、6月17日にロードマップの内容に関する法案を採択した。この法案は現在、欧州議会と閣僚理事会に送付され立法化に向けての審議が行われている。

ロードマップの目標は広く支持されているものの、いくつかの課題も浮上している。まず、LNGターミナルやパイプラインなどのインフラの能力拡張は、供給源の多様化を実現するために不可欠であるが、とくに歴史的にガス供給をロシアにのみ依存してきた中央・東ヨーロッパ諸国にとってインフラ拡張は依然として大きな課題となっている。つぎに、LNG需要の急増は世界市場を圧迫する可能性があり、新たな供給能力の確保が課題となる可能性がある。さらに、燃料供給に関する既存の長期契約は法的および財務的な複雑さを伴うため、訴訟を回避するためには慎重な交渉が求められる。最後に、原子燃料の多様化に関しては、特にVVER原子炉におけるロシア製燃料の代替は、規制上および実務上の大きな課題を伴い、比較的短期間で解決することは困難と考えられる。2027年に向けロードマップが計画通り進展していくか注目していきたい。


【プロフィール】国際基督教大修士卒。電力中央研究所を経て、学習院大学経済学部特別客員教授、慶應義塾大学大学院特別招聘教授、東北電力経営アドバイザーなどを歴任。専門は公益事業論、電気事業経営論。著書に、「電力改革」「エネルギーセキュリティ」「電力政策再考」など。

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