【特集2/座談会】独自の販売戦略で難局乗り切る 地域密着で顧客満足を追求

2025年9月3日

対電化はユーザー利点生む エコキュート難民に対応

古川 われわれも「即湯サービス」ではありませんが、類することをしてきました。当社は東日本大震災前、一時的に東京電力のオール電化住宅の関連機器の販売店だった時があります。500件くらいのお客さまにIHコンロやエコキュートを販売し、東京電力から優秀販売店として表彰されたこともありました。当然、当社のLPガスのお客さまを電化へ切り替えたケースがありましたが、その際、お客さまに「ガス給湯器を残しておいてください」と伝えていました。その方が、万が一の時に使えると思ったからです。

角田 なるほど。

古川 皮肉にもエコキュートに変えたことでLPガスのブローカーが来なくなったと喜んでいるお客さまがいましたね。

 同時に当時感じていたことがあります。大手家電メーカーのIHコンロが売れていたわけですが、商品群が豊富で品質もすごく良く、お客さまも選び甲斐があった。逆にガス業界からすると、ガス設備に対するエンドユーザー側の選択権がほとんどなく、ガス設備が自動的に設置されることが当たり前でした。つまりガス業界はしっかりと商品提案をしていなかった。IHコンロが生まれたことによって、ガスコンロの性能も品質も上がり、結果的に電化VSガスという流れはお客さまにとっては良かったと思っています。

角田 二人に共通しているのは、お客さまの視点に立ち、お客さまの満足を生み出すために取り組んでいることだと思います。続けてお聞きしますが、エコキュートの更新需要にはどのように対応していますか。

古川 当時はオール電化ブローカーによるエコキュート販売も数多くありましたが、その多くが今はもう存在していません。一方、ブローカーがいなくなったことで「エコキュート難民」が生まれ、同時にご指摘の通り、更新需要が昨今発生しています。そこで当社が窓口となって、今でも年間100件くらいは交換需要の対応を受けています。その時、電気とガスの「ハイブリッド給湯設備」といった別のアイテムの提案をすることもあります。毎月の料金がお客さまのメリットになるケースがあるからです。

 個人的な話をすると09年にオール電化の自宅を建てました。その後、太陽光パネルや蓄電池を加え、現在はオフグリッドに近い住宅にしています。お客さまにこうした住宅モデルを提案し、1000件くらいの方々に取り入れてもらっています。その流れで、ガス供給だけではビジネスモデルが不十分なので、地元の小田原ガスさんと一緒に地域新電力を立ち上げて地域中心の電力供給も手掛けています。電力供給には不確実性が多くリスクを伴いますが、卸元との長期契約を結ぶなどしてリスク低減に心がけています。

古川は太陽光事業も行う

人材の育成に注力 AI活用を進めて効率化

角田 人材不足や業務の効率化など、業界にはさまざまな課題があります。どのように認識していますか。また何か取り組んでいることなどはありますか。

中岸 人材の採用が難しくなっています。その意味で人材育成がこれまで以上に大切になってきます。例えば燃料転換の提案ができる営業パーソンもいれば、できない人もいる。この辺の営業力を高めていく人材育成の必要性を感じています。

 また、LPガス産業が培ってきた特徴は「対面」です。仮に電化商材を売ったとしても、お客さまにきちんと顔を見せるような関係性を築き、会いに行くことに価値を見出す人材をきちんと育てておく必要があります。

 私はガス業界が好きです。誠実な方も多い。そういった方々が生き残っていけるような土台を作っていくことに力を注いでいきたいと考えています。

古川 2年くらい前から業務全般にAIを取り入れていて、この秋からはAIによるLPガスの配送ルート計画を本格的に導入します。また、AIの活用で、手作業が伴う業務は夜中に回し、お客さまへのアンケート調査なども行っています。

角田 人材をどのように確保していますか。

古川 フリーランスや他社で働いている人員を副業として集めた「副業人材チーム」を作っています。外部の人材を適宜入れ替えながら、配送や経理などの業務合理化、マーケティング、事業戦略の立案などにAIを取り入れています。AIによる教育プログラムもあるので、自分でアプリを作って備品発注、バーコード管理、請求書発送といった仕組みを作った社員もいます。とにかくAIによる進化のスピードは速くて、私の想像をはるかに超えています。今、AIの勉強や仕組み化を考えることが私の業務の7割以上を占めています。

角田 本日はありがとうございました。

ふるかわ・つよし  富士銀行(現みずほ銀行)入行後、2003年に家業の古川に入社。事業の多角化を推進し11年に社長就任。

ちゅうがん・まさし  2010年鳴門ガス入社。20年中小企業診断士登録。25年に社長就任。

つのだ・けんじ  東京ガスで家庭用営業・マーケティング部門等に従事。現在はコンサルティングなどを行っている。

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