【コラム/8月29日】敗戦後80年経済を考える~談話への期待は、節度ある経済運営

2025年8月29日

3、その前の80年間は、躍進の明治と暗黒の後半(昭和戦前)

その前の80年間(1865~1945年)は、黒船来航で、幕末経済の行き詰まりを打ち破り、近代化の時代だった。前半の40年間(1865~1905)は、幕末から明治の時代である。黒船来航、内戦の苦難の後、明治政府の制度作り、富国強兵・殖産振興だった。産業革命以降の海外技術導入・官営・民間払い下げが、民間を後押しした。農業主体の下で工業化(繊維産業・造船・鉄鋼)に邁進した。国内炭がエネルギー供給を支えた。実質成長率年1%程度だった。労働に耐え衣食住を追いかける日々だった。貧しさに耐えながらも、目標が明解だった。欧米の産業革命を見習い、日露戦争を遂行した。

後半40年間は、経済拡大・不安定と軍事力増強の時代だった。日露戦争後、大正時代第一次世界大戦(1914~18年)の戦需で経済成長且つ異常膨張後(この間年6~7%成長)、需要剥落・金融危機、昭和恐慌後期を経て、戦争経済に至る。繊維主力ながら鉄・セメント・紙の生産が伸びた。エネルギー(1935年エネ源別供給構成比%)は、薪炭横ばい(10%)、水力増(18%)、石油増(10%)ながら、主流は、国内炭(62%)だった。後半40年間の実質成長率は、年3%だった。引き続き、日々衣食に関心を持ち、住も貧しく耐える時が続いた。何よりも職を得ることが必要だった。大正デモクラシー、社会運動は漸進せず、軍事力強化に屈する。目標が問題だった。今振り返れば間違いだったが、その是正の術が分からずだった。そして敗戦で一人当り50万円(1943年:2005年価格)の経済水準が破綻した。すべてが軍の論理に忖度だった。


4、今後の80年間に向けて何を考えるか

予測ではないが、過去の政治・社会のあり方で記憶に残る主張がある。1901年5月安部磯雄、片山潜らの社会民主党宣言である。目指すべき政治社会体制を描いた。理想8項目、綱領28項目を掲げた。現在は資本主義経済の世で、社会主義的所有は実現していないが、敗戦による米国GHQの体制変更指示で、普通選挙、教育、労働権、治安・言論規制廃止等、その主張の多くが実現した。米国作成・国民了解の日本国憲法の制定が、人間の社会的欲求としての自由・平等を賦与した。現在、各政党が、それを超え国民をより望ましい姿に導けるか疑問である。何より理想像がない。日本国の場合「意思あるところに道は開ける」の言葉が適当か首を傾げるが、今の良き現状の維持に四苦八苦の体に見える。そして良き国家を支える経済の状態が不安である。

経済予測はどうだろうか。ネット上で経済の未来予測を様々見受ける。例えば野村総研「未来年表2025~2100」は、AI、防災、温室ガス削減、関係人口コミュニテイ等を話題とし、日本人口6278万人と描く。日本経済センター「2075年長期経済予測」(日経25年6月23日)は、標準ケースで日本のGDPはTOP10から脱落。2024年の4位から2075年には11位まで低下する。一人当たりGDPでみると、日本は45位へ低下し、相対的な所得水準は「中位グループ」へと転落すると述べる(AI・AGI期待改革ケースは4位)。実質成長率は、標準年0.3%、改革期待で年2%程度のようである。経済の長期予測は、難しい。

今後80年間の経済はどうなるか。技術進歩込みの予測は困難だが、過去から学ぶことはできる。経済水準とエネルギーの関係である。明治以来の経済推移とエネルギー消費量の関係が参考となる。エネルギー消費の対GDP弾性値は、ほぼ1だった。明治以降戦前までは薪炭から石炭の時代、敗戦後は石炭から石油の時代だった。高度成長時代、国際情勢に恵まれ、苦労せず、石油を入手できた。そして節度ある経済運営もあった。敗戦後40年間の経済成長が、現在の経済水準を作った。後半40年間はエネルギー制約・経済運営拙くで低成長だった。

次の時代は、環境制約で非化石の再エネ・原子力の時代となる。核融合の実用化がなければ、非化石のみで経済水準維持に必要なエネルギー量を確保できるか。精一杯の努力が必要である。自らの負担でエネ供給のリスク吸収が基本となる。いずれにしても大量・安定・廉価という成長貢献エネルギーとやや乖離する。エネ供給制約を乗り越え、経済成長をもたらす技術革新があるか。日本の事例に、この経験はない。これらを踏まえ、今後の経済推移を考えざるを得ない。人口減も考慮し、一定の技術革新があるとして、引き続き成長率は、0~1%程度であろう。IT革命、AI革命、その他の技術革命等技術革新期待ながら、この国の科学技術力は、漸く先進各国並みである。画期的な新産業が生まれず、新陳代謝程度ならさほど経済拡大を望めない。雇用重視の健全な経済運営が国民幸福の鍵となる。

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