【コラム/9月12日】米国の電気料金上昇とデータセンター拡大の見えざる罠
最近米国では、データセンターの立地は、多様な地域へ広がりを見せており、米国電力研究所(EPRI)は、国内の総電力消費量に占めるデータセンターの電力消費量のシェアが、現在の約4%から2030年には約9%まで増える可能性があると指摘している。これは、AIが膨大な電力を必要とすることを改めて認識させるものである。実際、ChatGPTのような生成AIを使用した検索は、従来のGoogle検索よりも約10倍の電力を消費する。また、AIのトレーニング(例えばGPT-3の場合)には約1.287ギガワット時(GWh)の電力が必要で、それは米国の一般的な家庭約100件分の年間消費量に相当する。これらの事例は、生成AIの活用に伴う見えにくいコストを象徴的に示している。
日本もまた、AI開発を国家成長戦略の重要な柱として位置付けるとともに、データセンターの国内誘致を積極的に進めている。これにより、AI産業の競争力を高めるとともに、安定したデジタルインフラの整備を図ることで、地域経済の活性化や国際的な技術覇権に備えようとしている。しかし、このようなDX(デジタルトランスフォーメーション)の裏側には、PJMの事例に見られるように、電気料金の大幅な上昇という「見えざる罠」が潜んでいる。
さらに日本は、2050年のカーボンニュートラル(CN)達成を掲げ、GX(グリーントランスフォーメーション)を加速させているが、その過程では膨大なコストが電力料金へ転嫁される可能性がある。具体的には、原子力発電の再稼働・新設、再生可能エネルギーの導入拡大と送配電網の整備、水素やアンモニアなどの合成燃料を活用したガス火力発電の商用化、CCS(CO₂回収・貯留)付き石炭火力発電の実用化などが挙げられ、いずれも巨額なインフラ投資を伴うことになるだろう。これにより、消費者はDXとGXの両面から増加するコストの負担を強いられることになるが、果たしてその重みに耐えることができるだろうか。
【プロフィール】国際基督教大修士卒。電力中央研究所を経て、学習院大学経済学部特別客員教授、慶應義塾大学大学院特別招聘教授、東北電力経営アドバイザーなどを歴任。専門は公益事業論、電気事業経営論。著書に、「電力改革」「エネルギーセキュリティ」「電力政策再考」など。
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