【オピニオン/10月12日】新政権の「当たり前」を考える

2020年10月12日

飯倉穣/エコノミスト

新政権が発足した。「菅内閣発足・・行革・デジタル独自色腐心」(朝日2020年9月17日)、「菅内閣が発足、規制改革へ縦割り打破、コロナ対応・経済両立」(日経同)と報道された。

菅義偉首相は「経済の再生は引き続き政権の最重要課題。アベノミクスを継承し、一層の改革を進める。目指す社会像は、自助・共助・公助そして絆。行政の縦割り、既得権益、悪しき前例主義を打ち破り、規制改革を全力で進める」(抜粋)と述べた(首相会見16日)。

 そして次官連絡会議(18日)で「世の中には国民の感覚からかけ離れている、当たり前でないことが残っている。現場の声に耳を傾けて、何が当たり前なのか、見極めてほしい」(抜粋)と話した。

政策としてコロナ対策に注力、アベノミクス継続、デジタル化等推進(デジタル庁創設)、携帯料金引下げを掲げる。そして役所の縦割り等の打破、規制改革推進を打ち出した。早速担当大臣個人が、行革110番(現在内閣府縦割り110番)を設け、国民の声を収集している。政府・政策運営の「当たり前」を考える。

当たり前の意味は、「①そうあるべきこと、当然、②普通」(広辞苑)とある。この言葉の受け止めは、人それぞれで、単純ながら複雑である。前提に規範(社会規範)の存在がある。 

小泉改革(01年)は「当たり前主義」と評された。自分が当然と思わない既得権益の破壊とタブーへの挑戦であった。小泉ワイド劇場「構造改革」の舞台で、特会・特殊法人改革、不良債権処理、郵政民営化、規制改革・構造改革特区等を実施した。マスコミの喝采があったが、経済効果は不明である。

政権の当たり前は、政権維持に尽きる。マスコミ・選挙民の支持を得る施策の演出と実施である。論理性は怪しい。政府運営(行政)の当たり前は、民主主義国家では、法による行政である。国家行政組織法、各省設置法で担当を決める。担当が重複・分散・曖昧・不明の場合、調整となる。この調整が、宿命的に縦割り・先例主義等を顕在化する。これまで縦割りで狂牛病・温暖化対策等が話題となった。今回PCR検査を巡って、各省の分担や調整は茫々、国・地方の関係も朦朧、地公体内部の対応も不明瞭だった。

経済財政諮問会議の設置は、総理の政治主導でデマケを解決する趣旨もあった。時間の経過とともに会議はプロパガンダ性を強め、機能忘失になっている。官邸主導は、省庁・官僚の萎縮を招来し、不作為も助長する。「社長が笑えば皆笑い、社長が怒れば皆下を向く」状態である。また官僚が法定外業務を実施することも望ましくない。故に官僚向けの当たり前は、法による行政、行動規範の徹底である。そして今回の問題提起で、どんな事項が、縦割り、既得権益、先例主義の対象として浮上するか興味深い。

規制改革は、政府の効率を高め、歳出削減が重要である。知恵・努力無き民間の哀願に仕事を分与することは避けたい。

気掛りは、政府の経済運営の当たり前である。新政権は、「国民の皆さんが安心できる生活を一日も早く取り戻す」と当面コロナ対策注力を挙げた。そして経済運営はアベノミクス継続という。アベノミクスは、リフレ派(通貨供給量増・物価上昇・安定成長可能)の主張に沿っている。政府は、成果として為替安・資産価格上昇、デフレ脱却、雇用増加を強調する。加えて財政状況改善なら成功だったろう。

残念ながら日本経済は19年第4四半期(GDP前期比△1.8%)に行き詰った。国の債務は、192兆円増加(12~19年)し、財政収支の赤字幅改善も些少だった。プライマリーバランス20年達成の夢は消え、先送りになった。また日銀勘定合計が、国債保有額360兆円増等で440兆円増加した。日銀の膨張が、経済不安を増幅する。アベノミクスは、経済均衡概念が希薄で、成長軌道を描けず、失調(とりわけ財政不均衡)した。

今後の経済運営はどうなるか。現経済状況を出発点とし、総理は、「安心できる生活」を目指している。それは均衡のとれた安定的な経済であろう。需給均衡し、企業収益があり、一定の雇用が確保され、そして財政が均衡する姿である。そして些かの成長があれば望ましい。目標とする経済を実現する政策立案は、これからだが、容易でない。国民・企業・政府それぞれの努力と負担の意志が重要となる。理性と克己心の新経済政策の策定を期待したい。

【プロフィール】経済地域研究所代表。東北大卒。日本開発銀行を経て、日本開発銀行設備投資研究所長、新都市熱供給兼新宿熱供給代表取締役社長、教育環境研究所代表取締役社長などを歴任。