BPOサービスを強化 新電力と共に成長する関係の構築へ

2020年11月7日

【SBパワー】中野明彦/SBパワー社長兼CEO

ソフトバンクグループ傘下で電力小売りを手掛けるSBパワーは新電力向けBPOサービスに注力している。 今年10月には、CIS・需給管理システム事業の譲受で電気事業関連業務サービスをフルラインアップした。

ソフトバンクの子会社SBパワーは2017年から本格的に電力小売事業をスタート。親会社の通信事業の強みを生かし、スマートフォンなどとセット販売する「おうちでんき」により、順調に顧客を獲得してきた。19年度の販売電力量は26億6000万kW時と、低圧部門の販売電力量シェアで4位にまで急成長。そのノウハウを転用し、同年6月からは新電力向けにBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)サービスを開始した。

電力小売り全面自由化が開始されて以降、登録小売電気事業者数は増加傾向にある。事業者のライセンスを取得し電力を卸市場から調達すれば、大規模な設備投資をすることなく参入が可能なためだ。また自社製品とセット販売を行い、販促強化につながる商材として注目されたことも影響している。

求められる高度な運営 電気事業を包括サポート

半面、電気事業は激化する価格競争と電源調達価格の変動リスクをバランスさせるための綿密な収益管理、適切な需給管理のオペレーションなど、高度かつ専門的な事業運営が必要となる。そのため、参入したものの事業撤退や承継を迫られる事業者も出てきている。

この状況を受けて、SBパワーが開始したのが新電力事業者向けの同サービスだ。電気事業に関する業務プロセスを支援するもので、①電源卸供給サービス、②需給管理代行サービス、③CIS(顧客情報管理システム)、需給管理システム提供サービス、④カスタマーサポート代行サービス―などをラインナップする。新電力事業者はそれぞれのニーズに合ったサービスを選択し導入できる。サービスは企業ごとにカスタマイズして提供し、電気事業への参入を検討している事業者には、事業立ち上げに必要な全てを包括的にサポートするコンサルティング業務に近いものもあるとのことだ。

「BPOサービスは当社が電気事業を手掛けるために構築した基盤を利用します。立ち上げから数年が経過し、ノウハウが蓄積されてきました。それらが他の新電力事業者様にも役立つのではと考え、開始しました」。中野明彦社長はサービス開始の背景をこう話す。

①電源卸供給サービスは市場変動リスクの少ない相対卸価格で全エリアに提供。ベース・ミドルなどの受給パターンごとに、契約期間や時間帯なども柔軟に対応でき、事業者のニーズに合わせた見積りを依頼することが可能だ。

②需給管理代行サービスでは、自社のバランシンググループ(BG)を活用し、インバランス料金の負担、BG内の連帯責任や保証金、エリア追加料金などが一切かからないのが特長。新電力の事業運営におけるリスクを最大限回避できるのは大きなメリットだ。中野社長は「当社は一定規模のBGを持っており、AIなどを活用し高精度な需給運用を行うことで、サービスを低リスク、低価格で提供しています」と強調する。

③CIS提供サービスは今年10月から開始した。クラウド型の顧客・需給管理システム事業をエプコ社から譲り受け、これまでSBパワー自体も外部に委託していたシステムを内製化し、これを安価で新電力事業者向けにも提供する。顧客管理や料金計算などに加え、需要家向けのウェブサービスの提供などが一通り標準機能として備わっている。数件から数十万件までスケーラブルに対応できる上、事業者の要望に応じてカスタマイズできることは魅力だ。

④カスタマーサポート代行サービスでは、システム登録、料金計算・請求などの事務作業や、需要家からの問い合わせ対応など、事業運営に不可欠な業務全般の受託が可能だ。通信事業で培われた顧客対応ノウハウをベースに、高いセキュリティ環境下で高品質なCSサービスを提供している。

このほか、制度変更などを分かりやすく解説する情報配信サービスも既に開始。さらに、スマホ決済サービス「PayPay」などの付加価値サービスとの連携強化に加え、独自に開発した家庭向けデマンドレスポンスサービスや、グループ会社エンコアードジャパンが提供するホームIoTの提供なども視野にいれていく考えだ。

「CISと需給管理システムが加わり、電気事業の運営に必要な機能を網羅的に提案できるようになりました。当社自らが使用するシステムなので、安心してご利用いただきたい」(中野社長)。

中長期を見据えたサービス 競争だけでなく協調も図る

度重なる制度変更に対し、特に中小規模の新電力事業者がその対応を全て自前で対応することは容易ではない。事業継続がますます難しくなることも懸念される。中野社長は「新電力同士が競争するばかりではなく、お互いの得意な面で協業するなど、BPOサービスの提供が緩やかな関係性やネットワークを構築し、共に成長する機会にしたいと思っています。短期的な利益にとらわれず、このつながりを中長期的に意味があるものにしていけたら」と展望する。

一方、厳しい事業環境にあっても、新電力事業の立ち上げを検討する企業は依然多い。BPOサービスの顧客数は今年末には50社を超える見込みという。今後はさらに強化して、早期に100社まで拡大していく方針だ。

中野明彦/SBパワー社長兼CEO

なかの・あきひこ 1989年慶大経済学部卒。大手電力会社にて経営企画に長く携わる。2012年ソフトバンク(現ソフトバンクグループ)