住宅の歴史をつくった3社が集結 整備と再生に向けた今後の課題

2020年12月30日

HEMSによるアドバイス 利用の可否でエネ消費に差

中上 省エネアドバイスの話が出ました。これは、ちょっとしたきっかけで消費者の行動が変わり、それが省エネにつながるナッジの仕組みですね。省エネになると電気やガスの販売量は減りますが、省エネレポートの送付などのサービスがお客さまから支持されれば、競合企業への離脱を防ぐことになります。つまり、企業に対するお客さまの信頼度が高まり、次の競争力につながるというわけです。

 戸建住宅へのHEMSの搭載率は現在約7割で、累積6万6000台ほど設置しています。これらのデータは全て、リアルタイムで見ることができる状態です。最初に導入した11年頃は、「見える化」でお客さまに省エネしてもらおうとしていましたが、関心のある方は1、2割程度でした。また、HEMSのデータを基に、お客さまへの省エネアドバイスもやっていますが、利用する人としない人ではエネルギー消費量が数倍の差があります。

中上 省エネの効果を算出するには、ベースとなる数字がないと、正確な数字は出せません。AI、IoTによってビッグデータが手に入れば、それを解析して情報が開示され、平等に使えるようになると、各家庭に最適な電気、ガスの使い方が提示でき、膨大な省エネの可能性が出てきます。

 なかなか省エネの進まないお客さまには、AIなどを使って省エネ型に設備を制御するサービスをしてもいいのかなと思っています。おせっかいかもしれませんが。

尾神 URでも、コロナ禍をきっかけとして、AIやIoTを積極的に事業に取り入れていこうとしているところです。ただし、これまでの人の行動が、AIやIoTに完全に置き換わるわけではありません。アナログでやってきた人の行動を支援するツールとして活用するのが良いのだと考えています。例えば、ロボット掃除機は家事の負担軽減になる素晴らしい製品です。こうした技術とうまく共存していくことが大切です。

消費者の声で世の中に変化 暮らし方が原点の知恵

中上 消費者の声が世の中を変えた例があります。待機時消費電力は1、2W程度とわずかで、以前は省エネ効果があると見なされていませんでしたが、家1軒に10~20カ所の待機時消費電力を発生する機器があるとすれば年間1万円以上の削減になります。これが主婦向け雑誌などで取り上げられて、家電メーカーも本気で待機時消費電力の省エネを考えるようになりました。消費者の行動やエネルギーの使い方、暮らし方を原点に知恵を出していく必要があります。

石川 お客さまに利便性をご提供するという視点で、エネルギーの見える化はもちろん、データの活用を考えていければと思っています。先ほど話の出たナッジなどによりお客さまが無意識のうちに省エネできるような研究を進めています。いずれはその知見を生かして新しいサービスにつなげていきたいと考えているところです。

尾神 先ほど申し上げた洋光台プロジェクトは9年目を迎えており、最終段階となる今は、未来への豊かな暮らし方や地域の在り方の具現化を進めているところです。ここで重要なのが地域やコミュニティの形成です。そのため、まずは地域の住民の方々が自ら活動をしていただけるような仕掛けづくりを行っています。例えば、店舗が多いエリアでは広場を改修するとともに、高層棟エリアでは、建て替えにより、ファミリー層を呼び込む仕掛けや、高齢者施設と多世代交流施設などの整備も進めています。こうした地域コミュニティの形成により、住民の方々が地域に愛着を持ち、自治会活動などを積極的に行っていただくことで、団地の活性化につなげていければと思います。
塩 HEMSのデータをうまく活用すれば、家電量販店などで、お客さまの冷暖房の使用量に応じて適正な機種をお薦めできると思います。使用量が多い方は値段が高くても高効率の機種、少ない方には低価格の機種を使っていけば、大きな省エネになるでしょう。

中上 最終的には消費者の意識や行動が大きく関わってくる。この点が、今後のストック住宅対策を考える上で重要な要素となっていきそうです。本日はありがとうございました。

なかがみ・ひでとし
1973年東大大学院建築学専門課程博士課程を単位取得退学。同年、住環境計画研究所を創設。2013年から現職。経済産業省総合資源エネルギー調査会臨時委員などを務める。

いしかわ・ただあき
1992年京大大学院工学研究科機械工学専攻修士修了。東京ガス・エンジニアリング(当時)、都市エネルギー事業部、商品開発部(当時)、技術戦略部(当時)、日本ガス協会などを経て、2018年から現職。

おがみ・みつのり
1986年東京理科大理工学部建築学科卒。建設会社に勤務後、97年住宅・都市整備公団(現在の都市再生機構)に勤務。既存ストックリニューアルやルネッサンス事業などに従事。2020年4月から現職。

しお・まさかず
1985年神戸大大学院工学部卒、積水化学工業に入社。98年より太陽光発電の専任担当。太陽光発電協会の監事なども務める。

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