コスト低減と安定供給の両立へ 「スマート保安」を積極展開

2021年1月7日

【東北電力ネットワーク】

東北電力ネットワークは、AI・IoTなどを活用した設備保守の高度化・効率化を進めている。
激変する事業環境の中、コスト低減と安定供給の両立を実現し、競争力強化を目指す。

東北電力ネットワークの供給エリアである東北6県と新潟県は、国土面積の約2割を占めており、架空送電線路の長さ、送電鉄塔の基数とも、国内の一般送配電事業者の中では最大の設備規模。安定供給を果たしていくためには、この広いエリアに点在する設備について、巡視や点検を通じて劣化状態を把握し、計画的に適切な補修を実施するとともに、必要に応じて設備の更新を進めることが重要となる。


送電鉄塔は、経年による腐食や劣化のレベルに応じて塗装や部材の取り換えを行うなど計画的な補修工事を行う必要があるが、従来、腐食・劣化の度合いの判定については、個人差が生じやすいという課題があった。


また、送電鉄塔の腐食箇所やその程度については、鉄塔1基ごとに管理しており、補修工事の計画策定に多くの時間と労力を要していた。

AIで腐食劣化度診断 経済産業大臣賞受賞

そこで、AIを活用した「腐食劣化度診断システム」を、株式会社SRA東北と共同で開発。2019年11月に電力業界として初めて運用を開始した。


本システムでは、スマートフォンやドローンなどで撮影した画像を基に、AIが送電鉄塔の腐食や劣化の度合いを瞬時に判定。これにより、判定に係る個人差を解消することが可能となった。加えて、画像の撮影時にGPSにより鉄塔の位置情報を自動的に取得し、判定結果とともにデータベースへ送信することで、各鉄塔の腐食・劣化の度合いを一元的に管理することが可能となり、補修工事計画を短時間で策定できるようになった。

撮影した画像を基に、AIが腐食劣化度を瞬時に診断
AIを用いた鉄塔腐食劣化度診断のイメージ

システムの導入から1年。「腐食・劣化状況をスピーディかつ的確に把握できるようになりました」と、同社電力システム部送電グループの冨岡敬史さんは、導入の手応えを語る。本システムは、国土交通省および関係6省庁がインフラのメンテナンスにおける優れた取り組みを表彰する「第4回インフラメンテナンス大賞」の「経済産業大臣賞」を受賞。同社は今後、送電鉄塔と似た構造物を持つほかの産業への展開の可能性も探っていく。

さらなる効率化へ 多様なパートナーと連携

このほかにも、同社電力システム部では、多様なパートナーとタッグを組み、新技術を活用したさまざまな検証を並行して展開している。


例えば、送電鉄塔に設置している航空障害灯の点灯状況に係る目視確認の効率化を目的に、省電力で長距離通信が可能な「LPWA」と呼ばれる通信技術を活用し、山間部の送電鉄塔に取付けた現地センサーの動作情報を収集、遠隔監視するIoTシステムの実証試験を、宮城県内で実施している。実証に当たっては、通信大手など複数の企業と連携し、早期の実現を目指すとともに、さらなる活用拡大も模索する。


さらに、レーザーなどの光を対象物に照射し、対象物の座標や輝度を読み取る技術「LiDAR」を活用して、変電所構内の設備の外観異常を遠隔地にいながら自動的に検知する技術の検証を、日本電気株式会社と共同で実施している。「この技術の特長は、異常値に関するデータの学習や蓄積がなくても検知が可能な点です。変電設備の状態把握の高度化と巡視業務の効率化を同時に達成する技術として、将来、人の目に代わる技術となる可能性があります」と、同社電力システム部変電グループの竜野良亮さんは、その効果に期待を寄せる。

LiDARを活用した異常検知のイメージ

同社はこのように、AI・IoTなどの新技術を積極的に取り入れ、設備保守の高度化・効率化を図る「スマート保安」の展開を通じて、引き続き、お客さまや地域社会に安心・安全・快適な暮らしをおくり届けるという使命を果たしていく考えだ。

電力システム部送電グループの冨岡さん(左)と同部変電グループの竜野さん(右)