トリチウム水放出への懸念 問われるコミュニケーション能力

2021年1月11日

東京電力は「炭素14の影響は小さいため、ALPSの除去対象として設計されていないが、基準以下になるよう処理する」と説明しているので、大丈夫だろうと思うが、要はそうした事実をいかに分かりやすくニュースの形で伝えていくかだ。

大事なのは、いまトリチウム等汚染水がどういう状況になっているかを常に公開し、説明していくコミュニケーションだ。

私の知人の食品リスク専門家は「62種類の放射性物質は本当に除去できるのか疑問だ。仮に62種類の放射性物質が除去されたとしても、原発事故で発生した燃料デブリに触れた後のトリチウム水と、世界中の原子力施設で放出されているトリチウム水が本当に同じ性質と見なしてよいかも疑問だ」と言っている。こういう懸念にも答えていくことが必要だ。

常に状況を公開・説明を 第三者組織で透明性を確保

では、62種類の放射性物質が確実に除去されていることを、どうやって伝えればよいのだろうか。東京電力は第三者組織をつくって、その組織に常時、除去の状況を報告する。そして、定期的に第三者組織の監査を受けるような仕組みになっていれば、国民から信頼されるだろう。世界が受け入れているトリチウム水ができるまでの処理過程を、いかにガラス張りに見せられるかどうかが勝負だ。

まだ課題はある。20年11月10日に行われた第171回ふくしま復興支援フォーラム(オンライン)で講師の柴崎直明・福島大学共生システム理工学類教授(福島県廃炉安全監視協議会専門委員)は「放射性汚染水の現状と課題~海洋放出問題に関連して~」と題した講演で「海への放出が決まった後でも、地下水はどんどん流入し、処理水が減ることはない。地下水の流入を食い止める抜本的な対策を取らないと、トリチウム水問題は解決しない」と話した。

いくら海へトリチウム水を放出しても、それと同程度の地下水が流入すれば、確かに最終的な解決は長引く。この種の懸念にも明快な説明が必要だろう。

東京電力はこうした懸念に応えるべく、トリチウム問題専属のメディア広報官を置いてはどうだろうか。常に記者と接し、常に国民の疑問に応え、常にニュースの形で伝えられる情報を的確に説明できる広報官がいれば、解決は可能だと思う。

 

 

こじま・まさみ 1951年生まれ。愛知県立大卒、毎日新聞社入社。松本支局などを経て、東京本社・生活報道部で主に食の安全・健康・医療・環境問題を担当。食をテーマとして活動するジャーナリスト集団「食生活ジャーナリストの会」代表。東京理科大非常勤講師。

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