水素エネルギーへの期待の高まり 燃料電池製品が次々に登場

2021年1月18日

【リレーコラム】大平英二/新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)次世代電池・水素部統括研究員

水素への関心が国内外で高まっている。2017年12月に日本が世界で初めて水素戦略を策定した後、近年では欧州各国をはじめ韓国、オーストラリア、チリなど多くの国々で水素戦略を発表し、国を挙げて水素の取り組みを加速している。水素に関する国際会議も盛んで、「ウェビナー」というコロナ禍で普及したツールも相まって、大きなものでは1万人規模の参加者という実績もあるようである。世界が目指す「カーボンニュートラル」の実現に向け、水素が大きな役割を果たすことへの期待の表れといえる。

これには、水素を利用するアプリケーションである燃料電池製品が世の中に出てきたことも大きく貢献しているのではないか。09年に販売開始された家庭用燃料電池は国内で30万台を超え、14年12月に市場投入された燃料電池自動車も、20年12月には第二世代が発表されるに至っている。都内では燃料電池バスを頻繁に見かけることができ、水素ステーションは全国で約150カ所を数えるほどになった。他国では燃料電池列車や燃料電池船も開発されている。

とはいえ、これらは「水素社会」の実現に向けた第一歩にすぎない。社会システムの中で、どのように水素を利活用していくか、グランドデザインを描いていくことが必要であろう。その点、欧州の政策の打ち出し方は参考になる。普及が拡大する再生可能エネルギーを電力セクターのみならず、運輸・産業・熱の各セクターで利用する「セクター・カップリング」の概念は、さまざまなセクターをつなぐという水素の役割を端的に指し示すものといえよう。また、「Hydrogen Valley」構想は、地域主導で低炭素社会を構築するというメッセージと受け止めることができる。

水素を巡る夢物語が現実に

日本でも1993年に水素利用国際クリーンエネルギーシステム技術プロジェクト、通称「WE―NET」プロジェクトで水素社会の絵が描かれた。これは他国で製造した水素を日本に運び、水素航空機も含めてさまざまに利用するという将来の姿で、当時は夢物語ともされた。だが、現代では燃料電池車が走り、水素タンカーが開発され、水素飛行機も開発計画が発表されるなど、夢が現実につながっている。 先達の長年にわたる取り組みが下敷きとなっていることは言うまでもないが、われわれはこれを享受するだけでなく、新しい未来の姿を描き、50年カーボンニュートラルを担う次の世代にいかにつなげていくか、あらためてその責務の大きさを感じるところである。

おおひら・えいじ 1992年東京理科大理学部卒、NEDO入構。経産省出向、NEDOバンコク事務所駐在、蓄電技術開発室室長などを経て、2018年7月から現職。

次回は日本エネルギー経済研究所新エネルギーグループ研究主幹の柴田善朗さんです。