【コラム/1月11日】予知保全の評価

2021年1月11日

矢島正之/電力中央研究所名誉研究アドバイザー

 電力設備の保全方式として、わが国では、予知保全(predictive maintenance)の考え方が受け入れられるようになってきている。予知保全とは、設備に遠隔から監視するセンサネットワークを構築し、これらセンサ群により収集した情報から故障の予兆を発見・推定する考え方である。定期的に検査・保守を行う時間計画保全から「壊れる予兆が出たら」取り換えるという保全方式への転換により、供給信頼度を維持しつつ保守コストを抑制することができる。

 デジタル化の進展とともに、予知保全が注目されるようになってきているドイツの電気事業で、この予知保全はどのように評価されているだろうか。予知保全は、大手の電力会社での適用例はあるが、現段階で、シュタットヴェルケでは広まりを見せていない。実際には、状態に基づく保全のほうが明らかに広範囲に用いられている。ここでは、保全のための予測は使われておらず、リアルタイムでのセンターの通報により対応している。すなわち、専門家の経験値により対応している。双方の保全ともに、一定期間に予め決められたプランで設備の保守を行う従来のサイクルベースの対応を回避でき、保守コストの低減が図られる。

未だに状態に基づく保全が多く用いられていることは、シュタットヴェルケの多くの専門家は、状態に基づく保全と比べて予知保全の費用対効果が今一つ明確でないと考えていることを示している。しかし、将来的には、予知保全は、その費用対効果が向上するにつれ、状態に基づく保全に取って代わるようになることは確かだろう。

 電力だけでなく、ドイツの産業全体で見たときも、現段階では、予知保全の適用は限定的である。Staufen-Neonex社の調査によると、「予知保全に関しては、残念ながらデタラメレベルが非常に高い」とのことである。同社が、製造業394社を対象に「予知保全の状況」を調査したところ、 3分の2の企業は、すでにそのようなソリューションを使用している、あるいは少なくともそう思うと回答している。しかし、よく調べてみると、多くは、せいぜい状態監視、つまり、センサや予測アルゴリズムを使わずに、純粋に機械の動作を観察しているだけとのことである。また、「現在市場に出回っている予知保全のパフォーマンスをどのように評価しますか」という問への回答の74%は、利用可能なアプリケーションは改善可能であると考えているか、その有用性はまだ低いと考えており、パフォーマンスが高い、または非常に高いとの評価はわずか6%に過ぎなかったとのことである。

多くの企業は、欠陥が発生しているときにしか反応しないが、Staufen-Neonex社のシニアパートナーJochen Schlick氏によると、「ほとんどの故障は損耗によるものではなく、ヒューマンエラー(工具が適切に調整されていないなど)によるものであり、これらのエラーをすべてなくすことができて初めて、予知保全を考える価値がある」とのことである。

 電力設備は安定供給が至上命題なので、ヒューマンエラーはまず考えられないだろう。しかし、予知保全が状態に基づく保全に取って代わられるようになるには、その費用対効果が明確に示されることが必要であることは確かなようだ。デジタル技術を駆使した革新的なサービスは、やがては広範囲に用いられるようになるとしても、その導入初期段階においては、過大評価されている可能性があるだろう。

【プロフィール】国際基督教大修士卒。電力中央研究所を経て、学習院大学経済学部特別客員教授、慶應義塾大学大学院特別招聘教授などを歴任。東北電力経営アドバイザー。専門は公益事業論、電気事業経営論。著書に、「電力改革」「エネルギーセキュリティ」「電力政策再考」など。