【コラム/1月25日】温暖化パニックに陥らずサプライチェーンに生き残る方法

2021年1月25日

杉山大志/キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

日本の産業界は、昨年10月の菅首相の所信表明における「2050年CO2実質ゼロ」宣言以来、温暖化問題で浮足立っている。また海外のIT企業などが、サプライチェーンにもCO2ゼロや再エネ100%を求めると聞いて動揺している。近頃では日本政府に30年の再エネ比率を高める要望を出す企業も増えてきた。

だが、太陽光発電にしろ、風力発電にしろ、バイオマス発電にしろ、火力発電や原子力発電に比べればはるかに高価だ。これは誰が負担するのか?

もしもこの費用は再エネ賦課金等などの形で他の企業に負担させて、自分だけはそのCO2や再エネとしての価値を安く買って、他のすべての企業の犠牲のもとに自分だけ生き残ろうというのであれば、ずいぶんと利己的な話だ。

そうではない、というなら、自分で費用を全額支払ってでも再エネ100%にしようという意思のある企業はどれだけあるのだろうか?ここで言う費用とは、もちろん補助漬けで安価になっている見かけの費用のことではなく、現実に社会全体として負担している費用のことである。これは平均発電費用だけではない。再エネを接続するための送電網の増強などの、電力システム全体に掛かる費用だ。

本当に自分で費用を全て負担する用意があるというなら、国に頼らずとも、自前で電気を調達すれば済むことだ。今ではCO2ゼロ電気や再エネ電気を売る企業は沢山ある。それでも足りなければ、だれでも電気事業に参入できるのだから、そうすれば良い。

国全体として経済とのバランスを考えるならば、現在進行中の長期エネルギー需給見通しの見直しにおいて最も重要なことは、日本はこれ以上高コスト体質になってはならない、ということだ。だから、30年の再エネ比率を高めることには慎重になるべきだ。もしも比率を高めたいというならば、それにかかる費用がどの程度になるかはっきりさせるべきだ。十分に安価になるならば別に反対しない。だが一定の費用がかかるであろうから、それが受容可能かよく検討し、制度設計に当たっては、その費用が決して膨らむことの無いようにすべきだ。

「それでは海外IT企業などのサプライチェーンから外される」と言う意見がある。だが本当にサプライチェーンに残りたいなら、何よりもまず、コストこそが最重要課題だ。CO2がゼロであろうが、再エネが100%であろうが、高コストではそもそもサプライチェーンに残れない。

そして、冷静に競合相手を見てみることだ。日本と競合してさまざまな部品を供給しているのは、中国を筆頭に、アジアの開発途上国がその大半である。これらの国々は日本以上に化石燃料に大きく依存している。CO2や再エネを理由に日本企業をサプライチェーンから外すというなら、いったいどこの企業から調達するというのか?

それに、海外のIT企業自体がやっていることも、よく確認すると良い。CO2ゼロとか再エネ100%とか言っていても、その費用を全額負担している訳では無く、他の国民に多くを負担させて調達していることがほとんどだ。これがいつまで長続きするかは、気まぐれに移ろいやすい政策次第である。

また、物理的な裏付けがあるとも限らない。たいていの場合はCO2排出権を買ってきたり、再エネ証書を買ってきたりして帳尻を合わせている。

日本企業も、どうしても必要ならば、海外の支店でCO2排出権を買ったり、再エネ証書を買ったりして、国内と通算して帳尻を合わせればよい。無理に国内だけで済ますよりも、その方が安上がりになる。COP(国連気候変動枠組み条約締約国会議)などの国際交渉の場では「排出権の国際移転」と言った途端に面倒な議論が始まるが、私企業であるサプライヤーが世界全体のどこで排出権や証書を買って帳尻を合わせても、海外IT企業がそれをことさら問題にするとは思えない。

むしろ、海外IT企業の側で排出権や証書をサプライヤーに売るサービスを始めるのではないか、と筆者は予想している。というのは、海外IT企業自身が大量に排出権や証書を調達するスキルを身に着けつつあるのみならず、品質が良く安い部品であれば、どの国の製品であれ、何とかして買おうとすることは間違いないからだ。

メディアがあおるパニックに陥るのではなく、どのような政策と企業戦略のセットがあり得るのか、冷静に検討したいものだ。

【プロフィール】1991年東京大学理学部卒。93年同大学院工学研究科物理工学修了後、電力中央研究所入所。電中研上席研究員などを経て、2017年キヤノングローバル戦略研究所入所。19年から現職。慶應義塾大学大学院特任教授も務める