【コラム/2月22日】官製卸電力市場を考える~技術革新なき自由化がもたらす官権肥大

2021年2月22日

飯倉 穣/エコノミスト

年末から1月にかけて電力需給逼迫で卸電力所のスポット価格が200円を超える事態となった。担当官庁は、消費者に注意喚起し、卸市場調達の新電力向けに優遇策を要請した。今回の市場介入の姿で電力システム改革の実態が垣間見えた。1990年代以降の電力自由化という政策は、日米経済摩擦対応の構造改革の一環として遂行された。小売り自由化・卸電力市場等創設・発送配電分離で2020年一段落し、国家管理貫徹となった。官権強化策で、先行きも電力供給不安定が見込まれ、日本に必要な一次エネ開発力・海外調達力という企業力も疲弊させている。規制緩和政策(電力改革)は、経済的には不要で、無益なところに官の力を投入した。電力業は、抑々国と関係なく、純粋民間ベンチャーを嚆矢とする。且つ、現在も準公共財的なら公益事業的な扱いが適当であろう。

1,年末から今年1月にかけて、ピーク時予備率1%接近地域もあり、日本卸電力取引所のスポット市場取引価格(東京エリアプライス円/kWh)が跳ね上がった。14日240円台に達し、その後乱高下した。この過程で、識者の中に政府が電力緊急事態宣言を発出すべきという声もあった(11日)。報道もあった。「大手電力 節電呼びかけ 家庭や企業に 寒波で需給逼迫」(日経11日)、「電事連 節電呼びかけ 電力不足懸念 経産省と温度差も」(朝日同13日)。

2,経産省は、遅まきながら市場連動型料金契約の消費者に注意喚起し、一般送配電事業者に対し精算金単価上限を200円/kWhとする新電力保護の措置、等々を要請した(29日)。この役所の対応に電力システム改革への疑念が再浮上する。今回事態を垣間見て、改めて電力自由化という管理強化政策を考える。

3,需給逼迫・スポット価格のボラタイル(不安定)は、商品(私的財)市場なので、米国流なら、自由化進展となる。売電業者で資金難があっても、消費者に多少不便があっても特に問題視することもない。

4,15年以降の卸電力市場(スポット価格10円前後)の安値・安定は何故継続したか。取引量拡大のため、担当官庁は、旧一般電気事業者(9電力)の余剰電力の全量市場供出を求めた。旧事業者に余剰電力の全量を、原則限界費用ベース(≒燃料費)で投入させた(13年)。且つ取引量の低迷を受けて17年以降自社需要の0~1%以上の予備力を超える電源の市場投入も要求した。市場支配力を強調し、旧事業者を雁字搦めにして、売電等への新規参入を煽り、自由化成功・効率化達成と喧伝したい官庁の恣意が見え隠れする。

5,電力卸市場のスポット価格が限界費用(≒燃料費)期待であることが、抑々市場として不可思議である。また強制売電措置もありえない。市場信奉者フリードマンの価格が導く「鉛筆1本」の自然発生的な市場経済の姿と異なる。卸市場は、市場原理無視の国家管理型である。市場という名前がまず間違いで、「強制的卸電力売買統制機関」である。政府関与なしが市場である。安全基準以外の法規制を直ちに廃止すべきである。

6,安い卸電力市場を背景に小売電気事業者が増加した(21年2月702社)。その販売電力の8割は卸電力市場調達である。人の褌で相撲をとる便乗商法が流行している。新規参入小売業の燃料調達力疑問、電源建設意欲疑問、送配電利用の小売商売のみという姿に、エネルギーの安定供給が図れるかという疑問が残る。補完策として電力容量市場やΔkWh人為市場を作った。国内小売競争より、当面は非CO2一次エネ確保・海外調達力こそ重要に思える。

7,電力自由化は、日米経済摩擦を背景としたバブル形成以降の一連の構造改革の一環である。繰り言だが、経済的には不要な政策であった。今回の現象は、その欠陥改革の象徴である。電力改革は、当初内外価格差是正、高コスト構造是正を目的とした。その後、市場に電力需給を委ね、競争で電気事業全体の効率化を図り、電気事業の発展を図るという保守的電力業打破・官庁主導権確保が狙いとなった。卸・小売りで疑似市場を作り、一般電気事業を発電、送配電、小売りの3事業に分割し国家管理貫徹で一段落した。

8,過去30年に亘る電力自由化をどう考えるべきか。電気事業も、技術革新があり、電気の価格が大きく低減となれば、当然革新者が、規制の戸を叩き、新規参入可能である。通信の場合、技術革新で通信単価が、数百万分の1になったという。エネルギー・電力の世界では、未だ安価・安定・大量供給可能な技術革新は到来していない。競争で実現できることは、他産業の規制緩和と同様、リストラ効果的なものである。革新的技術を生むとも考えにくい。

電力自由化で、一般国民に電源を選びたい声は響かなかった。お役所主導の電気事業の仕事の細分化・再配分だった。国内市場の波乱は、海外交渉力低下となる。電力改革は、無益なところに官の力を投入し企業力を疲弊させた。

9,今後どうなるか。自由化(という国家管理)が進めば、電気事業者の体力消耗戦で、新規投資・予備力確保は困難になる。電力容量市場やΔkWh市場で国関与が益々強くなる。自由化という名の電力の国家管理強化である。日本の民力・国力低下でもある。準公共財の視点を重視すれば、現在でも公益事業としての管理が適当である。

【プロフィール】経済地域研究所代表。東北大卒。日本開発銀行を経て、日本開発銀行設備投資研究所長、新都市熱供給兼新宿熱供給代表取締役社長、教育環境研究所代表取締役社長などを歴任。