【特集2】座談会 再生可能エネルギーと原子力 「大きな壁」をどう乗り越えるか

2021年3月3日

―再エネの普及が順調に進まなければ、原子力発電の役割が増していくと思います。

山地 50年の数値についてはまだ議論できる段階ではありません。しかし、原子力発電はカーボンニュートラル実現に重要な役割を果たすと思っています。原子力の問題は再エネと真逆で、皆に嫌われていることです。福島事故で国民にいったんインプットされた大規模事故への懸念を解消するのは難しい。まずはきちんと再稼働を進めて、温暖化防止に重要な役割を果たすことを見せることが大切だと思います。

 現在の運転期間を40年として、1回だけ最長20年延長する制度も技術的に考えておかしい。再稼働と稼働年数の延長は、おそらくゼロエミッションの中で最も費用対効果がいい。ですから、まず原子力には生き延びてほしい。生き延びれば、50年までの間に新設の可能性も出てくるでしょう。新設する際も、新しい革新炉である必要はない。最新のARWR(改良型加圧水型炉)は、まだ1基も建設されていませんが、安全性はかなり高まっています。

三浦 私の会社が行った意識調査では、原子力に関して、自民党を支持する人は消極的容認、反対する人は積極的な強い否定感情があります。もし今の原子力に対する風潮がそのまま続けば、新増設や新しい技術開発に熱意を持つ政治家はいなくなる。放っておけば原子力発電廃止の方向に向かうのが、今の世論状況とみています。

 問題は、これが廃炉や高レベル放射性廃棄物処分場の問題においても、それらへの対処から目を背けさせる効果を持つことです。最終的処分場の建設は難しいことを日本人はうすうす分かっているから、原子力はこれほど人気がないのでしょう。原子力は技術としては保持しておくべきだと思いますが。

澤田 三浦さんが高レベル廃棄物の問題を指摘されましたが、安全に処分することは技術的に可能です。日本にも、フィンランドの「オンカロ」、スウェーデンの「エストハンマル」のような処分に適した場所があります。

 ただ、やはり原子力そのものが嫌われていて、さらにNIMBYの問題がある。その中で北海道の寿都町、神恵内村で最初のステップの文献調査が始まったことは、非常に大きな前進だと思います。

政府戦略に欠けるリアリズム 革新炉よりも再稼働を

―カーボンニュートラルを達成する上で、最も大切にすべきことは何でしょうか。

山地 カーボンニュートラルでは「成長と環境の好循環」という掛け声をよく聞きます。50年に向けて政府はグリーン成長戦略をつくりましたが、読むと三浦さんが冒頭で指摘したように、規模感とかコストの感覚とかが見えてきません。つまりリアリズムが足りない。これでは産業界は付いていきにくいでしょう。

 原子力もリアリズムを重視すべきです。革新炉よりも、まず今止まっている発電所を再稼働させる。それから、澤田さんが言われたように、北海道で文献調査に応募が出た高レベル廃棄物の処分場のプロジェクトを着実に進めていくことが大切だと思います。

水素社会を構築する中で高温ガス炉は重要な役割を果たす(HTTR) 提供:日本原子力研究開発機構

澤田 原子力は、日本がこれから水素社会を構築する中でも重要な役割を果たすと思っています。水素は原子炉、特にガス冷却炉の高温を使うと非常に効率よく製造できる。これは、ほぼ確立された技術です。

 原子力による「パープル水素」はコストも格段に安くできる。再エネの電気を使う「グリーン水素」は、もともとの太陽のエネルギーが水素になるのは数%にすぎない。原子力を使えば3~4割ですから、効率が全然違います。

 50年に向けて、まずは30年の電源構成の目標である22~24%を達成すべきです。そのためには、いろいろな分野の人たちが、政府に対して新増設の必要性を訴えていただきたい。政府も水面上に現れそうになって沈んでいく新増設に対して、もっと真剣に向き合うべきです。

三浦 ゼロエミッション社会の実現では、電力が鍵になります。今後、電力需要が増大する中で、ゼロエミッションにし、成長を目指すことが理想的な形です。そのためには、カーボンニュートラルを人間の活動を制限するものとして後ろ向きに捉えるのではなく、新たな付加価値を生むものとして捉えることが必要です。

 原子力も再エネも、最終的にリスクやコストを背負うのは国民ですし、それによる成長の果実を享受するのも国民であるという感覚が大事だと思います。

さわだ・てつお 1980年京都大学理学部物理学科卒、三菱総合研究所、ドイツ・カールスルーエ研究所客員研究員を経て現職。博士(工学)。専門は原子核工学、原子力安全など。

やまじ・けんじ 1977年東京大学大学院工学系研究科博士課程修了。電力中央研究所を経て94年東大電気工学専攻教授。2010年地球環境産業技術研究機構理事・研究所長。博士(工学)。

みうら・るり 2010年東京大学大学院法学政治学研究科総合法政専攻博士課程修了、博士(法学)。 日本学術振興会特別研究員、東大政策ビジョン研究センター講師などを経て19年から現職。

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