【特集2】「福島事故」後に高まる安全性 放射性物質放出に抑制目標値

2021年3月3日


福島第一発電所事故での放出量は6000兆~1京5000兆Bqであったと推定されており、この量に比べれば、100分の1程度のオーダーに抑制することになる。原子力規制委員会によれば、これは緊急事態時の被ばく制限、100ミリシーベルトより十分に低くなると評価されている。
具体的に、この要求を満たすには、格納容器の健全性を維持するか、またはそれができない時には高性能のフィルターを通して放出(フィルターベント)するようにシステム設計を強化することも必要となる。
性能目標は、安全目標への適合性確認が行いやすいように、安全目標に適合していることを判断できる目安を施設の特性に関する指標で表現したものだ。内的および外的起因事象の全体を含めた事故シナリオについて、炉心損傷頻度(CDF)1原子炉・年当たり1万分の1、格納容器破損頻度(CFF)1原子炉・年当たり10万分の1を目標としている。
わが国では、これらの基準を満足すべく、新たに設けられた規制基準はテロ対策や自然災害への対策など30項目を超えるさまざまな設備システムなどのハードの対策強化とともに、緊急時の対応手順の強化などソフトの対策の強化もなされた。

IAEAの定量的な安全目標

許されない「想定外」 PRAで事前に発見

原子力施設の安全確保には想定外は許されない。原子力安全を脅かす事故を防ぐには、リスク評価を基にした徹底した自然災害、人為的事象および内部事象などによる事故事象の想定と対策の検討を行うことが重要となる。100万年に1回の事故も起こり得ることを、福島第一発電所事故は示した。起こり得る事故の大きさが示されたともいえる。
この教訓を反映して、起こり得ない小さなリスクも徹底的に見いだし、深層防護を基本としたアクシデントマネジメントや防災対策の充実に努めることが必要である。
定量的なリスク評価の一つとしてのPRA(確率論的リスク評価)により、経験していない事象も考慮に含めつつ、リスクの観点から重要な事故シナリオを見つけ出すことができ、安全対策における相対的な弱点を明らかにし、対策を強化することができる。これがPRAの最も基本的な使い方であり、原子力安全の評価においてPRAが重要である理由である。
リスク認識は個人で大きく異なる。多くはその影響、被害の大きさを指す。放射性物質が漏れることや炉心損傷などである。尺度が共通ではなく、受け取る感覚、認識でその程度は大きく異なる。そこで、これらの認識の共通化が必要である。福島事故が起きたことで、原子力事故の位置付けが理解できた。これによりほかの事象や最近の新型コロナウイルスの感染症による犠牲者数と比較することができる。同様のことが起きたとしても、その程度が分かると同時に、このリスクへの対応策の位置付けも理解できる。
すなわち、福島事故の教訓として平常時から具体的な過酷事故のシナリオを想定した計画の整備・強化が重要である。そのためには、広範なシナリオの発生可能性を考慮して有効な防護対策を検討しておくことが必要である。

絶対安全への願望に甘え リスク認識を国民と共有へ

「安全神話」への戒めは、JCO臨界事故の反省として指摘されている。多くの原子力関係者が「原子力は絶対に安全」などという考えを実際には有していないにもかかわらず、社会の絶対安全への願望に甘えてしまったのである。自然災害を要因として福島事故が発生してしまったのである。
安全神話からの脱却には、裏付けのある安全を表明することは必要である一方、リスクの存在を認め、それに真摯に取り組む状況を示すことによって原子力安全への国民の理解を得ること、すなわち、誠実なリスクコミュニケーションの努力が必要である。
しかし、国民の理解を得るには、存在するリスクの説明だけでは不十分であり、そのリスクそのものの認識を共有し、その上でそのリスクが受容可能なレベルにあること、そのレベルがどのように評価、検証されているのか、といった科学的な論拠が示される必要がある。重要なことは、このプロセスにおいて、現在の安全性の状況を検証し、弱点を認識し改善するという継続的な安全向上への共に取り組む姿勢と仕組みの整備である。

みやの・ひろし 1971年慶応大学工学部機械工学科卒、東芝入社。原子炉システム設計部長、原子力技師長、東芝エンジニアリング首席技監などを経て原子力学会廃炉委員長などを務める。(工学博士・北海道大学)

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