【論考/3月22日】バイデン政権の中東政策 サウジへの対応に二面性

2021年3月22日

中東の地政学に変化の兆しが出ている。UAEとバーレーンがイスラエルと国交を結ぶ中、米バイデン政権はイランとの関係修復を模索。帝京平成大学の須藤繁教授は、サウジアラビアとイスラエルとの関係も要注目だと指摘する。

政権発足から1カ月半、米バイデン政権の外交政策が動き出した。就任直後の演説は、同盟国との関係再構築を重視し、前政権の米国第一主義からの転換を鮮明に打ち出すものであった。

外交政策の基本方針が、2月下旬から徐々に具体的に展開され、3月2日には初めて対ロ制裁に踏み切り、人権問題の重視と欧州との連携を明らかにした。翌3日には中国に対する当面の外交、安全保障分野の基本戦略を公表したが、新政権の対中国政策は、トランプ政権と同様厳しいものになることを窺わせる。

政策の軸はイラン包囲網強化

こうした外交基本政策の中で対中東政策の要素を、対イラン、対サウジアラビア政策の点からみていくと、イランに対しては2018年5月にトランプ政権が離脱した核合意への復帰が軸となる。米国の離脱後、19年5月イランは核合意を破る核兵器開発に着手し、本年1月には短期間で核兵器に必要な濃縮度90%レペルに引き上げられる20%レベルへの核濃縮を始めた。

バイデン政権はEUを仲介させる条件でイランとの対話を用意することを表明した。米国は6月のイラン大統領選挙で保守強硬派の勝利を阻止したい考えであり、その点では対イラン経済制裁を解除してビジネス関係を再開したいEU諸国と思惑は一致している。

サウジに関しては、2月26日、18年10月にトルコで起きたカショギ記者殺害事件に関し、米国家情報長官室が、「同事件をムハンマド皇太子(MBS)が承認した」と結論づけた調査報告書を公表した。同事件の報告書のこの時期の発表は、バイデン政権の発足に関連すると考えるのが自然である。

大統領は報告書の発表に際し、「人権侵害について責任を問う」と発言し、米政府も事件に関与したサウジの元高官らを制裁対象に指定した。

報告書公表後、ブリンケン米国務長官は、国外の反政府活動に対する深刻な妨害行動に直接関与した者に渡航制限を課し、さらに米財務省は、MBSの側近で事件に関わった元情報機関高官や王室警備隊の精鋭部隊などを、資産凍結を含む制裁対象に指定した。こうした一連の動きの中で、報告書の発表を行う前に、25日バイデン大統領とサルマーン国王が電話で十分な協議を行ったという報道は重要である。

この数年、外交の表舞台に立ってきたMBSでなく、国王本人を協議したことは、新政権としてサウジとの関係を維持しつつも、同国の人権侵害を非難し責任を取らせるとの公約を実現しなければならないからである。新政権は、人権侵害の懸念から同国への武器売買を中止するほか、将来的な武器供与を防衛的な武器に限定することなどを検討せねばならない。

イスラエルの意中の国

ところで、昨年9月15日、UAEとバハレーンとイスラエルはホワイトハウスで国交を正常化させる合意文書に署名した。イスラエルは国内の先端企業への湾岸諸国の潤沢なオイルマネーの流入を期待しているが、その中で、意中の湾岸産油国はサウジであろう。同国との経済面の連携はイラン抑止という安全保障上の共通利益をさらに強固にする。

イスラエル政府が数年前から取り組んでいる平和鉄道は、イスラエル北西部ハイファからヨルダン、サウジの首都リヤドを経由して、オマーンのマスカットを結ぶ計画である。また、イスラエルには湾岸産油国から原油パイプラインを敷設する計画もある。

昨年三国の国交正常化を受け、サウジを含む他の湾岸諸国がどのような動きを見せるかは予断を許さないが、大きな枠組みとしては、大方の湾岸諸国とイスラエルは、いずれもイランと対立しており、一連の国交正常化は安全保障面で中東地域に新たな地政学の要素を与えている。


バイデン大統領はサルマーン国王と電話会談を行った
AFP=時事

一方、サウジ、UAE、バハレーン、エジプトは、1月5日GCC首脳会議の場でカタールとの断交を解消した。本措置は湾岸諸国を再度結束させてイラン包囲網を強めたい米国の意向を反映する。

これらの要素を踏まえると、サウジとイスラエルの国交樹立に関しては、米国がそれを期待するならば、鍵を握るのはサウジ側の対応になるだろう。その中で、サウジの動きには、サルマーン国王の指導力がキーポイントを握ると考える。

1935年生まれで、既に85歳になったサルマーン国王と1985年生まれの二世代若いMBSの治世を考えた場合、MBSにイスラエルとの国交樹立という難題を残さず、現国王の裁量で新たな路線を確立する方が、王国の安定性は大きく高まると評価される。

MBSは、17年6月サルマーン国王の勅命による前皇太子の解任を受けて皇太子に昇格し、王位継承者となった経緯がある。MBSに安定路線を継承させるという判断をサウジの長老が行うとすれば、中東地政学の枠組みは根底から変化し、域内の安定性を大きく高めることになるのだが。

帝京平成大学 教授 須藤繁

1973年中大法学部卒法律学科卒、石油連盟、三菱総合研究所、国際開発センターを経て、2011年から現職。専門は石油産業論。