【電力中央研究所 松浦理事長】時代に合わせて体制変更 業界・メーカーと連携しイノベーションと社会実装

2021年4月2日

電力自由化の次は、カーボンニュートラル宣言という新たな難題に直面する電力業界。
技術を掛け合わせる「知の融合」で激動の新時代に挑む。

1978年京都大学工学部卒、中部電力入社。2013年取締役専務執行役員、16年代表取締役副社長執行役員 電力ネットワークカンパニー社長。18年6月から現職。

志賀 年末から年初にかけて電力需給のひっ迫が発生しました。通常だと日中は太陽光発電が電力供給で一定の割合を占めるようになってきていますが、今年は天候不順が長期間にわたり続いたため太陽光発電の出力が低下。加えてLNG不足によって火力発電の出力が落ちるなど、悪条件が重なったことで電力の供給量が厳しい状況に陥りました。今回の事態をどう考えていますか。

松浦 寒波や天候不順など気象条件が異常だったことや、コスト削減のため各社が燃料に余裕を持たせない意識が働いていたようなことも要因として考えられます。

 電力会社は分社化する前は、「今年の冬はどうなりそうなのか」と、営業、発電、送配電、燃料調達などの各部門が顔を突き合わせて、安定供給責任を果たすことを第一に考えていました。分社化したことで各社の採算が重要となったことや各部門のコミュニケーション不足もあったのかもしれません。再エネの比率も大きくなってきており、電力の需給予測が難しいことも考えられます。

志賀 太陽光がどれだけ発電するかを見通すことは、火力発電の燃料需要を考える上でも重要だと思います。

松浦 太陽光の発電予測は、気象予測の精度に依る部分が大きいです。電力各社も気象庁や民間気象会社と提携して予測をしていますが、精度の高い予測を行うことは難しいものです。これは太陽光に限らず電力需給にいえることで、私も電力会社の送配電部門にいたころは、「気象予測が外れても当たる電力需要予測手法を作れ」と言っていたものです。

 太陽光の発電予測は、単に晴れ・曇りだけではなく、雲がどれだけの面積・厚みでどのように動くか、太陽光がどれだけ使えるのかという点も近年は重要です。電中研でも関連する研究を進めています。

志賀 電力の需給予測は、最終的に電力のコストに影響します。

松浦 燃料の調達が関わる電力の需給予測は、何か月も先の予測が必要になります。そもそも短期間の需要を正確に予測することですら難しく、それが中長期になれば難易度はさらに上がります。昨年の夏ごろには「今年の冬は暖冬になる」との予測が立てられていました。今回の供給量不足の原因は燃料不足にもあったので、今後ますます中長期の正確な需給予測が求められてくるでしょう。

衛星画像から日射量を推定し最大6時間先の日射量を予測する手法を開発した

広範囲の技術を網羅 発電・需要のCO2削減

志賀 政府は2050年までにCO2の排出を実質ゼロにするカーボンニュートラルを宣言しました。新聞報道などでは歓迎する声が大きく、当然進めていかなければならない課題ですが、脱炭素の余波でエネルギーの安定供給が脅かされてはなりません。今回のカーボンニュートラル宣言をどう受け止められますか。

松浦 気候変動の傾向が目に見えてきています。何とかしなければならないのは当然です。とはいえ、すぐに達成できるものではなく、中長期的に舵を切っていく必要があります。

 国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP)など国際的な会合で盛んに議論が行われていますが、道筋を明確に立てられている国はありません。日本も走りながら考えていってもいいと思います。

志賀 菅義偉首相はカーボンニュートラルの実現には、革新的イノベーションの確立が必要だと話しています。脱炭素に向けて電中研の強みはありますか。

松浦 われわれが持つ最大の強みは、電気事業者の現場と密接した関係にあり、電気事業の抱える課題をよく知っている点です。研究を現場で生かしていくフィールドがあるだけではなく、電気事業に関する研究も発電から小売りまでを網羅しています。技術も広範囲のものを持っているので、これらを上手く組み合わせながら成果を創出できるのが、他の研究機関にない大きな強みではないでしょうか。電気事業全体を分かったうえで、社会実装、すなわち現場に適用して結果を出していくことが、われわれのやるべきことだと思っています。

志賀 その中で、どのような研究を進めていきますか。

松浦 われわれの中では、脱炭素化は電源の低炭素化×電化と考えています。現在、国内のCO2排出量のうち、約4割が発電時に発生しており、残りの約6割が産業、運輸、家庭で発生しています。まずはわれわれのできるところで、電化による需要家サイドのCO2の排出量を引き下げることが重要だと考えています。

 そのためにもヒートポンプで使われる技術を産業用途や車などに応用する研究も行っています。また家庭、産業、運輸の各部門で発生する需要を束ねて管理することで、エネルギーを効果的に使用するセクターカップリングの研究も進めています。

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