【電力中央研究所 松浦理事長】時代に合わせて体制変更 業界・メーカーと連携しイノベーションと社会実装

2021年4月2日

松浦 東日本大震災や電力自由化などの影響もあり、各電力会社の経営は厳しくなっているので、電力会社の支援のみで電中研の運営を行うにも限界はあるでしょう。また、発送電分離によって電力会社内での細分化が行われるなど企業としての体制も変わっています。電中研創設時の精神は変わっていませんが、経営に限ればやはり厳しくはなっています。社会に貢献するためにもこの流れを新たなチャンスと捉え、進めていきたいと思います。

志賀 山ほど電中研の成果はありますが、なかなか知られていないことも残念ですね。

松浦 積極的に情報を発信していくことが重要だと着任時から言ってきました。電中研にはユニークな研究が多くあります。技術を多くの企業に提案することで、資金獲得につなげたいと思います。

新たな形で海外と連携 飛躍できる環境作り

志賀 海外の研究機関との連携はどうでしょうか。

松浦 さまざまな研究機関との連携はありますが、世界的に流行する新型コロナウイルスの影響もあって直接会うことが出来ていません。フランス電力(EDF)との提携は非常に長く、アメリカの電力研究所(EPRI)、サウスウエスト研究所、経済協力開発機構/原子力機関(OECD/NEA)などとも提携を結んでおり、例年だと毎年一度は直接会っていますが、この1年はできませんでした。

 そのため、EDF、EPRI、OECD/NEAとはウェブ会議を行っています。セミナーや会議は先方の時間に合わせて行うものもあるので、日本時間の深夜に開催されるものに私も参加しましたが、なかなか大変なものでした。

EDFとのリモート会議の様子

志賀 移動時間がないのはよいかもしれませんが、研究者同士の懇親の場が無いのは寂しいですね。

松浦 対面で直接交流を行うというのはやはり大事です。この状態が続くと、関係性が薄くなってしまうのではという懸念もあります。

志賀 いろいろなお話をお伺いして、やはり電中研は技術の塊のような研究機関だと思いました。

松浦 これからはわれわれが持つ技術をどうマネジメントして、社会実装を行っていくのかが大事だと思っています。特に近年は非常に優秀な研究者が入ってきているので、彼らに活躍してもらえるような環境作りを続けてまいります。

志賀 カーボンニュートラルはアメリカ、中国などCO2の大排出国も取り組んでおり、また新型コロナウイルスも全世界で流行し、77億人全員が二つの難題に直面しています。これを同時に取り組んでいくというのは人類の歴史上初めての事態のようにも思えます。そこには技術を持つことの重要性は非常に大きいと思います。本日はありがとうございました。

対談を終えて:中部電力時代は流通部門が長かった経験から、今冬の電力危機は、コストを軽視できない経営と、各部門のコミュニケーションの難しさが招いた面もあり、その背景として電力システム改革があると看破する。世界が競う温暖化防止のためのカーボンニュートラルのカギは、電源の脱炭素化とエネルギー利用の電化の組み合わせと説く。その意味では電中研は電気事業の現場と密接していることから、世界的に最も期待を集める研究機関の一つと自覚している。組織運営には柔軟で意欲満々だ。(本誌・志賀正利)

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