【コラム/4月5日】実はゼロエミ電源が有り余っている日本 強引な再エネ大量導入は有害無益

2021年4月5日

杉山大志/キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

一部の海外IT企業が、自身がゼロエミッション(脱炭素)宣言をするのみならず、サプライチェーンにもゼロエミを義務付けるという動きがある。これを受けて、「日本の製造業が海外IT企業などのサプライチェーンに生き残るためには、日本はゼロエミ電源の比率を上げなければいけない」という議論がある。

もちろん、原子力の再稼働によってゼロエミ電源比率を上げるならば、安価かつゼロエミの電力供給になるから、何も問題はない。だが、再生可能エネルギーの一層の大量導入によってゼロエミ電源比率を上げるというならば、コストの問題が生じる。コストがかさんでしまっては、CO2うんぬん以前にサプライチェーンに生き残れない。

前回は、国として再エネの大量導入をするのではなく、事業者の冷静な対応として競合相手や海外IT企業自体の振る舞いを見て、必要ならば国際的に再エネ証書を調達するなどの方法があると書いた。今回は、じつは日本のゼロエミ電源はあり余っていることを示そう。

海外企業がサプライチェーンに対してゼロエミを義務付けるといっても、全ての企業がそうする訳ではなく、世界全体での割合で言えば、ごく限定的になるだろう。ここでは仮に「米国とEUの全ての企業が輸入品に対してゼロエミ電源100%を義務付ける」と想定した上で、日本の輸出のために必要なゼロエミ電源の量を勘定してみよう。

日本の対世界の輸出総額は2019年において7億600万ドルだった。このうち、対EU輸出総額は8200万ドルで、対米輸出総額は1億4000万ドルだった。従って対EUと対米を足すと2億2200万ドルであった。これは輸出総額の31%にあたる。(以上データは日本貿易振興機構・ジェトロ)これに対して日本のGDPは51億5400万ドル(ジェトロ)だったから、米国とEUへの輸出合計金額はGDPとの比率では4.3%に過ぎない。

ここでGDPを1円生み出すための電力消費と、1円の輸出をするための電力消費を等しいと措くと、日本の電源の4.3%だけゼロエミになっていれば、それを使うことで米国とEUへの輸出製品は全てゼロエミ電源で賄えることになる。具体的な業務手続きとしては、輸出する製品について投入電力量を計算し、実際にそれだけのゼロエミ電力を買えばよい。もしそれで足りなければ、それに見合うだけのゼロエミ電力の証書である「非化石証書」を買えばよい。

日本のゼロエミッション電源比率は18年度で23%であった(図1)。これは30年度には44%になる予定だから、これならばゼロエミ電源は全ての輸出を賄ってなお「有り余っている」。

図1 日本の電源構成

もしも強引に再エネを大量導入して電気料金が高騰すれば、日本の製造業は壊滅するだろう。そうではなく、原子力の再稼働を進める一方で、輸出するために必要な企業は非化石証書を買い求めやすくするような制度設計をしていけばよい。

輸出する企業だけがゼロエミ電力を購入したり非化石証書を買ったりするというのは、いかにもいびつに感じるかもしれない。けれども、どこの国も似たようなことをやることになると見る。例えば米国の電源構成を見ると、日本同様に化石燃料が半分以上を占めている(図2)。このためすべての企業がゼロエミ電源に切り替えることは不可能で、一部の企業しかゼロエミ電源にはできない。

図2 米国の電源構成

またしばしば、日本と欧州諸国を比較して、こんな意見も聞く。「フランスは原子力発電が多いから火力発電の多い日本よりCO2原単位が低くて、今後の自動車生産は日本ではなくフランスでやることになるのではないか」「スウェーデンの水力を使ってCO2ゼロのバッテリーを造ると、日本の電源構成では太刀打ちできない」――。

けれども、EU全体として見てみれば、日本と大して電源構成は変わらない(図3)。ということは、EU企業が出来ることと日本企業が出来ることはさほど変わらないはずだ。つまりEUの企業がフランスの原子力の電気を買ったり、スウェーデンの水力の電気を買ったりしているのと同じことを、日本もやればよい。例えば日本にバッテリー工場を建てるとき、ゼロエミにしたければ水力の電気を買えばよいことだ。あるいは、日本の自動車工場も原子力ないしは太陽光によるゼロエミ電力を買えばよい。

日本にゼロエミ電源は有り余っている。「日本製造業がサプライチェーンに生き残るための再エネ大量導入」なる考えは、百害あって一利なしである。

図3 EUの電源構成

【プロフィール】1991年東京大学理学部卒。93年同大学院工学研究科物理工学修了後、電力中央研究所入所。電中研上席研究員などを経て、2017年キヤノングローバル戦略研究所入所。19年から現職。慶應義塾大学大学院特任教授も務める。