欧米で進むレジリエンス対応の事業化 日本で成功するための鍵を探る

2021年4月5日

【アクセンチュア】村林正堂/アクセンチュア シニア・マネジャー ビジネスコンサルティング本部

むらばやし・まさたか 2010年入社。電力ガス事業者向けの中長期経営計画の策定や新規事業の立案、
デジタルトランスフォーメーション戦略立案や業務・組織将来像構想などが専門。

前回は洋上風力では浮体式の普及が必須であり、そのポテンシャルを生かすべきだと提言した。3回目は、電力のレジリエンスに焦点を当て、送配電事業の災害復旧とさらなる事業の向上余地を示したい。

ここ数年、大地震や大型化した台風が日本列島に襲来し、全国各地に被害の大きな爪痕を残し、ライフラインを寸断することが頻発した。この激甚化する災害への対応に、国でも議論する機会が増えている。一方、世界に目を向けると、国家主導によるレジリエンス(強靭化)への対応だけでなく、レジリエンスをチャンスとして捉え、マネタイズしようとする動きも出てきている。今回はそうした電力レジリエンスと新規事業の可能性を考察したい。

レジリエンスを新規事業化するには、①他事業の能力を転用すること、②レジリエンスそのものを付加価値とした事業創出の大きく二つの方向性が考えられる。

①は他事業で需要家や社会のニーズを満たすサービスを提供する中で培ったオペレーションや有形・無形資産、パートナーなどを利用して、レジリエンス機能を高めていくのがコンセプトとなる。

②は停電を防ぐためであれば一定以上の金額を支払う意思を持っている需要家に対して、停電時間を最小化したり、停電発生しないようにするサービスを提案するものだ。

①では、自由化以降、電力会社も地域の見守りサービスなど、電力事業と直接関連しない新規事業も立ち上げ始めている。実際に、いくつかの新規事業では実証実験を終え、本格展開に臨むケースも見え始めており、その多くは、社会課題の解決に焦点を当てたものが多い。地域に根差した電力会社らしい事業展開となっている。

電力会社のノウハウを応用 事業化と同時に災害を低減

今後のマネタイズ方法や事業成長方法はさまざまな展開が考えられると思うが、こうした社会課題解決型事業を展開していく中でも、レジリエンス機能は磨かれていく部分は多い。ここでは、数ある社会課題の中でも「設備の老朽化」を解くサービスについて、「具体的な提供価値」、「電力会社ならではの能力」、「レジリエンスへの貢献」という視点で考察する。 「設備の老朽化」に関する「具体的な提供価値」は、例えば、台風が襲来すると、トタン屋根が吹き飛ぶ、住宅の浸水が発生するなど、住宅地や産業設備に多くの影響が発生する。その原因の一つに、設備修繕の未着手がある。高度経済成長時代につくられた設備をはじめ、異常のある建造物を早期に見つけ、適切なメンテナンスを提供することで、災害時の影響を最小化できる。

「電力会社ならではの能力」である設備の保守運用能力がここに生かせる。電気工事店・工務店などのネットワークを活用したり、自社の巡視・点検業務や子会社の施工力を活用し、直接的に手掛けられる可能性もある。

「レジリエンスへの貢献」では、一昨年の台風18号、19号による停電発生は飛来物や倒木が原因の被害が多かった。地域の住宅や事業所、樹木のメンテナンスを手掛けることで、台風の被害を減少させることができるだろう。

次に、そもそもレジリエンスで稼げるのだろうか―という②について考えたい。2013年の電力系統利用協議会(ESCJ)が実施した調査では、事前に停電連絡があったケースでは、停電コストは3050〜5890円kW時になるとの結果が出ている。東日本大震災から間もない中での表明選考形式での推計になるため若干のバイアスは考えられるが、19年のOCCTO(電力広域的運営推進機関)による停電コストに関する文献調査で、海外でも同規模の金額感で停電コストが報告されていることを考えると、通常を超えるレジリエンスサービスに対して一定の付加価値を感じる需要家群がいてもおかしくはない。

レジリエンスの事業性 有線給電などが有力

例えば、病院やデータセンターなど、電力需給がクリティカルな事業を営む需要家に対しては、自家発を設置せずに災害時に優先給電サービスが考えられる。具体的には、当該施設付近に蓄電池を設置して、複数施設向けとしてシェアリングし、通常時はVPP(仮想発電所)を使った調整力取引で稼ぎつつ、災害時にはためた電気を優先給電することで、自家発の設置コスト分を最大額としてマネタイズするといったものだ。

また、電力復旧に時間がかかりがちな離島や過疎地域向けにも同様のニーズが考えられる。海外でも取り組みが進んでおり、例えば、独E・ONや英SSENではレジリエンス・アズ・ア・サービスと銘打ち、分散型電源やスマートグリッドマネジメント機能を取りまとめ、停電時の過疎地の停電復旧速度を上げるための実証実験を開始し、その実現性と収益性の検証を始めている。

新型コロナウイルスを契機とした住宅での在宅勤務の常態化の継続や、台風・地震発生時における避難所生活での三密回避の難しさなど、安定した電力需要の重要性が生活の中に増している。これらへの対応に早期復旧に関わるサービスの裾野は広がる可能性がある。制度的な難しさはあるものの、国内での事業展開においても参考になる部分は多いものと認識している。

また、新たな事業展開するにあたっては、「マーケット動向を睨んだ事業参入」、「スピーディーな事業修正・撤退」、「テクノロジーと事業開発双方理解した人材の獲得・育成」、「自社の付加価値も踏まえた外部パートナリング」といった規制事業の推進とは異なる組織的な能力構築も求められる。