【コラム/4月26日】グリーン成長戦略とデジタルトランスフォーメーションの課題

2021年4月26日

矢島正之/電力中央研究所名誉研究アドバイザー

現政権は、新型コロナウイルス禍からの経済回復の柱として「グリーン」と「デジタル」を位置づけている。菅首相は、昨年12月4日の記者会見で、2050年カーボンニュートラルについて、「我が国が世界の流れに追いつき、一歩先んじるためにどうしても実現をしなければならない目標」と述べた。また、環境対応は、「我が国の企業が将来に向けた投資を促し、生産性を向上させるとともに、経済社会全体の変革を後押しし、大きな成長を生み出すもの」と強調し、2兆円のカーボンニュートラル基金を創設すると言明した。さらに、デジタルトランスフォーメーションのために、1兆円規模の経済対策を明らかにし、6Gで世界をリードするよう政府が先頭に立って研究開発を行うと述べた。

このようなポストコロナの経済対策により、今後の電力政策は、グリーン成長戦略やデジタルトランスフォーメーションのウエイトが増すであろう。以下では、ポストコロナの電力政策の展開にあたって、いくつかの留意すべき点を述べたみたい。

まず、グリーン成長戦略であるが、第1に、市場メカニズムの活用と技術・エネルギー間競争の公平性の確保が重要である。脱炭素社会の実現に関しては、費用効率性の高い技術のセットが採用されなくてはならない。そのためには、価格シグナルが必要であり、市場メカニズムを可能な限り用いなくてはならない。そして、技術間またはエネルギー間の競争を歪める要因は排除・是正されなくてはならない。例えば、エネルギー間競争を歪める租税公課負担の不公平があってはならない。また、外部コストの内部化に関し、例外を可能な限り排除しなくてはならない。さらに、新しい技術の市場へのアクセスを差別することなく可能としなくてはならない。例えば、VPPやDRなどの需要側資源に関しては、需給調整市場へのアクセスが不当に妨げられてはならない。

第2に、インフラの効率的な形成が求められる。2050年脱炭素社会の実現に向けて、スマートグリッド、ガスパイプライン、充電ステーションの整備はもとより、水素パイプライン、鉄道インフラ(モーダルシフト)、CO2輸送インフラなど、インフラ投資は膨大になる可能性がある。そのため、投資コストを低下させる効率的な設備形成に関する政策が求められる。脱炭素化のシナリオにより、メインとなるインフラが異なる。例えば、オール電化シナリオであれば、電力ネットワーク、power to gasシナリオであれば、ガスネットワークがメインのインフラとなる。グリーン成長戦略のために必要なインフラは、戦略に基づき効率的に形成されなくてはならない。

デジタルトランスフォーメーションに関しては、個人データの取扱いに関する適切な規制枠組みが構築されなくてはならない。デジタル技術を駆使した新しいビジネスモデルの開発においては、高度なデータ保護が保証されなければならないことは言を俟たない。顧客にとっては、様々なメリット(消費の見える化やコスト削減など)に加えて、個人データの取り扱いにおける高いレベルのセキュリティへの信頼が、新しいデジタルビジネスモデルを受け入れるための決定的な要素であるからである。

同時に、この規制の枠組みは、新しいビジネスモデルを開発する余地を残しておかなくてはならない。ここにおいては、目的の矛盾が生じる可能性があり、慎重に比較衡量されなくてはならない。例えば、スマートメータリングからのデータは、デマンドサイドマネジメントに用いるために集計して評価することができる。しかし、個人データの評価を必要とするビジネスモデルも多く登場するだろう。また、破壊的なビジネスモデルの開発は、しばしば法的枠組みを超えてしまう可能性がある。それゆえ、データ保護などの基準を明確にしつつ、イノベーションのための柔軟性を残しておく必要がある。そのため、ダイナミックなモニタリングにより、エネルギー産業のデジタル化の進展とそれに伴う課題を早期に発見し、解決策を見出さなくてはならないだろう。

最後に、グリーン成長戦略とデジタルトランスフォーメーション双方に関連して、ローカルフレキシビリティ市場の設計が必要となるだろう。多くの再生可能エネルギー電源は、配電系統に接続されている。また、フレキシビリティを提供する重要な設備も配電系統への接続が増大してくるため、そのようなフレキシビリティを市場参加者が提供できるプラットフォーム(ローカルフレキシビリティ市場)が求められるようになるだろう。わが国では、ローカルフレキシビリティ市場に関する議論が進んでいないが、デジタル技術を駆使した分散的な革新的なプロダクトを創出していくためには、同市場の整備が求められるようになるだろう。

【プロフィール】国際基督教大修士卒。電力中央研究所を経て、学習院大学経済学部特別客員教授、慶應義塾大学大学院特別招聘教授などを歴任。東北電力経営アドバイザー。専門は公益事業論、電気事業経営論。著書に、「電力改革」「エネルギーセキュリティ」「電力政策再考」など。