【コラム/5月10日】新型コロナ1年を考える~構造改革所以の制度劣化、活力委縮、開発力低下に嘆息

2021年5月10日

飯倉 穣/エコノミスト

 新型コロナ感染が始まり、1年過ぎて三回目の非常事態宣言発出となった。当面行動自粛期待で、海外依存のワクチン接種終了まで国民の苛立ちと観念が継続する。この間の感染症対策は、目標設定、感染防止対策の手落ち(基本の踏み外し)、戦略なき国産ワクチン開発、影響業種・企業・困窮者への対策で反省に満ちている。その背景に誤った構造改革に起因する海外偏重、制度変質、活力委縮、開発力低下がある。今一度日本に適した体制に建て直すことが必要である。感染症対策も基本に戻った対応が求められる。政権のモットーである当たり前に期待したい。

1,新型コロナ感染拡大から1年超を経過した。第二次緊急事態宣言全面解除後、小康状態は続かず、新年度に入りまん延防止等重点措置となった。大阪圏は感染者急増で医療体制逼迫、東京圏も不安蔓延である。

 報道は伝える。「緊急事態3度目宣言 4都府県あすから来月11日」(朝日21年4月24日)、「緊急事態宣言3度目発令」(日経同)。三回目の宣言発出となった。

中央・地方政府の状況対応は行き詰まり、収束の姿が見えない。政府の方針「感染防止と経済の両立(ウイズコロナ)」は、なぜ功を奏しないのか。今後の方向を再度考える。

2,感染症対策の基本は、繰り言になるが、感染予防策としての衛生管理・行動自粛・ワクチン接種と共に「早期発見、早期隔離、早期治療」である。反省点は以下の通りである。

第一に目標設定の在り方が問われる。感染ゼロかウイズコロナか。コロナ抑制一定成果国は、ゼロ感染を目標とした。故に行動規制に重点を置きロックダウン、検査徹底等の対策を強行した。政府・専門家は、ウイズコロナ政策で、行動自粛・検査抑制・GOTO推進と曖昧政策に終始した。

第二にワクチン確保に批判がある(朝日4月13日)。国内専門家の見方(開発に数年必要)は間違っていた。自国の現状に捉われた予測外れだった。欧米先進国の政府・製薬企業の遂行意志・実力を過小評価した。開発力の内外格差に愕然とする。

第三にコロナ行動抑制で経済的影響を受ける弱者の扱いが揺れた。自然災害と捉えれば、被災者は、患者そして経済的影響を強く受ける人々である。患者には的確な医療供給、コロナ影響業種の困窮者には社会政策的な対応であろう。給付金等は、無用な散財だった。

 第四に新型コロナ感染症対策の行政対応がわかりにくい。政府内に首相本部長の新型コロナ感染症対策本部、新型コロナ感染症対策分科会がある。感染症専門家集団は、検査拡充軽視で衛生管理を強弁する。政治家・専門家のショーでなく、実務的事項を担う官僚の説明と行動が不明である。

3,反省点の背景には、日本的対応の危うさ・心もとなさがある。第一は、海外事例の調査不足である。海外で起きることは、日本でも起きることが多い。専門家集団は、海外事象を受け流したり、別と推論しがちである。

東日本大震災・福島原発津波事故の例がある。スマトラ沖・津波(04年)からの検証・連想力不足があった。新型コロナも同様である。サーズ騒ぎ(03年)の北京封鎖の評価不足等である。原発事故は、原子力村の失敗。今回は、感染症村の視野狭窄が問題を深刻にしている。

第二に国家国民戦略欠如である。サーズワクチン開発も話題になったが、雲散霧消した。

ワクチン開発に1兆円投じる話はなかった。その戦略を考える人もいなかった。過去30年間、誤謬・誤解の構造改革で政府・行政・企業の組織的・行動的な混乱・彷徨の継続で「模倣から創造」も色褪せ、今は「模倣力」も低下した。

 第三に公衆衛生と医療体制の責任所在が不明瞭である。地方分権改革で、機関委任事務廃止となり、国と自治体の関係は対等になった。その下で医療行政の都道府県単位化が進んでいる。能力多様な首長連である。非常事態なら、中央政府が全体の指揮命令系統を掌握し資源配分すべきである。

第四に経済は、飲食業・観光業等の苦境報道の一方、堅調な業種も散見される。コロナショックを考慮した経済変動に合わせた経済対策が十分意識されず、国民の不満を掻き立てた。

4,医学・医療従事者の言を参考にすれば、コロナ克服は、一にも二にもコロナ感染拡大防止に尽きる。一本足打法と称された飲食業の時間短縮要請から、今はワクチン期待になっている。その実現に暫く時間を要する。経験からコロナ感染防止の良策は少ない事情を踏まえ、まず基本の実施であろう。

第一に感染防止として、移動規制、ワクチンも含めた感染ゼロ計画案を作成し実行する。検査体制整備に加え防止方法(些事の積み重ね)を多面的に考え徹底する。第二に適切・十分な予算措置で明確かつ効果ある医療体制の充実を行う。第三に行動規制に伴うコロナ関連弱者への対応と救済である。コロナで影響を受ける業種の事業維持費に対する政府保証・無利子融資(収束後一部免除考慮の返済)の実施、困窮者に対する雇用・生活維持金支給であろう。また今後の統治体制見直しでは、日本に適した当たり前を期待したい。

【プロフィール】経済地域研究所代表。東北大卒。日本開発銀行を経て、日本開発銀行設備投資研究所長、新都市熱供給兼新宿熱供給代表取締役社長、教育環境研究所代表取締役社長などを歴任。