脱炭素目指す「一丁目一番地」技術ヒートポンプを最大活用へ

2021年6月5日

松本 そんなにあるのですか。

町田 そうなんです。入社当時は800人程度の社員数でしたが、現在では5000人近くまで増えていて、そのうち半分近くが海外で働いています。そして、そのほとんどが現地国籍の人材です。アフリカ中央部だけが未開のエリアとなっていますね。

松本 具体的にはどのようなビジネスなのですか。

町田 海外ビジネスは、当初はヒートポンプの心臓部であるコンプレッサーの販売ビジネスでした。現地のパッケージャーに販売するわけです。その後、メンテナンスの拠点を拡充したり、あるいは自社でパッケージングする工場を新設したり、現地仕様にカスタマイズして導入したりしています。売り上げで見ると、国内と海外の比率はほぼ半々というところです。

松本 長く海外展開している前川製作所から見て、エネルギー政策における海外との比較とはどういうものなのでしょうか。

町田 特に欧州で顕著なのですが、国によるイニシアチブを強く感じます。欧州は考え方が環境優先にシフトしていて、EU政策として「環境に優しい設備を導入する」と決めたら、出口戦略を含めて一気にかじを切ります。

松本 出口戦略とは。

町田 環境性能の優れた設備をまずは導入し、モデルケースを作ります。そして、「こういうモデルを普及させなさい」と一気に政策的に誘導します。出口戦略はあくまでも民間企業が責任を持って取り組む日本とは事情が異なります。

先日、とある欧州の日本大使館の技術者の方と、日本のヒートポンプ技術について話す機会がありました。

先ほど触れましたCO2冷媒のエコキュートの事例のように、ヒートポンプの技術は間違いなく日本が世界をリードしていて、こうした日本の技術を説明すると、ものすごく好印象を持ってくれます。すぐさま、「その製品はいつ完成するのか? お金は用意しておく。ユーザーを探してくるから早く完成させてくれ」と。日本企業に来てもらい、そこに現地法人が作られれば現地雇用が広がる。取り組みが一貫しています。

地中熱ヒートポンプを活用している

松本 国側がユーザーを探してくるのですか。

町田 欧州ではそうやって導入先が決まるケースが多いです。

松本 そうなんですか。

町田 設備投資の感覚も異なります。日本の感覚からすると、例えば「数年しか経ていない生産ラインを、自らの投資で新製品用にすぐさま改造するなんてできない」となるのが一般的ですが、欧州は真逆です。出口戦略を見通すことができ、国からのサポートもあることから、民間企業は設備投資をしやすいのです。裏を返せば古いシステムに対して見切りが早い。

松本 確かに、欧州の電気自動車(EV)戦略などを見ると、そういう傾向がありますね。

町田 政策的に決めたら、国が主導して必ず実行する。仮に政策的に不都合が生じて失敗したら、また軌道修正すればいい。そんなスタンスです。加えて、現地に本社拠点を構えるグローバル企業は、率先してSDGs(持続可能な開発目標)に資するような環境に優れた設備を導入していかないと、世界中の株主からそっぽを向かれる。そんなことも懸念しています。

蒸気レスで脱炭素化 ヒートポンプで高温領域

松本 欧州が環境分野で世界をリードする意気込みがお話からも分かりました。さて、日本の優れたヒートポンプ技術ということですが、今後はどのような展望が期待できますか。

町田 ゼロエミッションに向けて、鍵を握る技術がヒートポンプです。基本的に需要サイドの取り組みの一丁目一番地はヒートポンプしかないと考えています。そこでターゲットとなるのが高温度帯です。

松本 100℃を超えるような温度帯ということですか。

町田 その通りです。これまでは化石燃料を燃やしたボイラーやバーナーでしか対応できなかったこの温度領域をいかにヒートポンプで置き換えていけるかに尽きると思います。これまでも、当社ビルのエコキュートしかり、高温化に向けたヒートポンプによる技術開発は進みました。この業務用エコキュートは、65~90℃のお湯を作れるので、温浴施設に導入されたり、食品工場の生産工程で加熱殺菌用途として導入されたりしています。今後はさらに高い温度帯がターゲットとなります。

松本 具体的な温度は。

町田 いまNEDO「未利用熱エネルギー革新的活用技術開発」プロジェクトで、200℃をターゲットにした技術開発を進めていて、25年くらいの市場導入を目途に取り組んでいます。こうした製品によって、例えば自動車製造の塗装乾燥工程など、利用分野が広がっていくと考えています。

松本 いま自動車業界では「蒸気レス」が合言葉になっています。

町田 そうなのです。こうした分野で化石燃料の消費量を減らせれば温暖化対策が大きく前進すると考えています。

松本 ヒートポンプの最新事情がよく分かりました。ありがとうございました。

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