【コラム/5月31日】電力分野におけるブロックチェーン技術の適用

2021年5月31日

矢島正之/電力中央研究所名誉研究アドバイザー

近年、分散型台帳技術であるブロックチェーンが注目されている。欧州では、エネルギー分野においてブロックチェーンの数多くのパイロットプロジェクトが実施されている。以下にその例を挙げてみたい。まず、オーストリアでは、最大のユーティリティ会社Wien Energieが、2018年に、ウィーン市中心の新しいビジネス・居住地区(Viertel Zwei)において、ブロックチェーンを活用して住民間で太陽光発電のPeer-to-Peer(P2P)取引を実施している。また、2015年に設立されたスタートアップGrid Singularityは、ブロックチェーンを利用したエネルギー取引、グリーン電力証書取引、スマートグリッド・マネジメントなどのサービスの提供を行っている。オランダでは、天然ガスインフラ・輸送会社Gasunieが、2017年に行ったパイロットプロジェクトで、グリーン電力証書に関して、ブロックチェーン上での発行、管理、取引、移転、検証が可能であることを実証した。

ドイツでは、2017年に、innogyのShare & Chargeとslock.itが共同で、ブロックチェーンを用いて、電気自動車の充電ステーションでの課金を行うパイロットプロジェクトを実施している。また、2017年に、Ponton社とTenneT社がsonnen eServices GmbH社と協力して、ブロックチェーンを用いて、約6,000個の家庭用蓄電池を束ねて系統運用者(TenneT社)に需給調整電力を提供するパイロットプロジェクトを18か月間実施した。

ドイツにおけるさらなるブロックチェーンの適用事例としては、再生可能エネルギー電力のP2P取引が注目される。大手電力会社では、innogyが、2017年5月に東京電力とConjoule社を設立し、P2Pでの再生可能エネルギー電力の取引のためのプラットフォーム事業を始めている。また、自治体ユーティリティ企業では、Wuppertal市のシュタットヴェルケ(WSW)が、2017年11月に同様のプラットフォーム(”Tal.Markt“)を開設し、2018年末までテストを行った。2019年年初からは、Wuppertal市域外にもその取引を拡大させている。

また、WSWは、他のシュタットヴェルケに対して、”Tal.Markt“をベースにした独自のプラットフォームの開発や、ホワイトラベル供給を可能にしており、Bremen市のswb、Halle/Saale市のEVH、Trier市のSWTが、WSWの支援により、グリーン電力のP2Pでの取引を始めている。そのほか、Technischen Werke Ludwigshafen (TWL)(2018)や Eberbach(2019)など、同様の取引を始めるシュタットヴェルケが出現している。業界団体BDEWの調査では、デジタルトランスフォーメーションとの関連で、ブロックチェーンを重要と考えるシュタットヴェルケは24%存在している。ブロックチェーンに対する一時期の熱狂は冷めつつあるものの、その利用に踏み切るシュタットヴェルケはこれまでのところ少しずつ増えているといえるだろう。

このようにシュタットヴェルケがブロックチェーンによるプラットフォーム事業に従事する動きが見られるのは、ブロックチェーンは、取引コストが低減でき、データの改ざんが事実上不可能となるなどのメリットがあるからだ。そのようなメリットゆえに、自治体の住民にとって、地域のグリーン電力を自ら調達でき、その発生源を証明できるという点は大きな魅力となる。また、ドイツでは、2021年から固定価格買取制度が終了する再生可能エネルギー発電が出現するが、その電力を住民が自ら調達できるプラットフォームの運営は、シュタットヴェルケにとって新たな収益源となるだろう。

最後に、調査機関denaがドイツ、オーストリア、スイスのエネルギー産業の経営者や専門家300人を対象に実施した調査の結果(2019)を紹介すると、4分の1以上(28%)の企業がエネルギー経済における様々な分野でブロックチェーン技術を実験しているか利用している。この調査結果の興味深いところは、ブロックチェーン技術への関心は大企業も中小企業もほぼ同じくらい高いが、従業員数500人以下の中小企業で、ブロックチェーン技術を利用している数は、大企業の3倍であるという点である。革新的技術導入の鍵を握るのは、企業の規模よりも先取的な企業文化といえるだろう。