【論考/7月1日】再エネと原子力の共存共栄 ハイブリッドシステムで可能に

2021年7月1日

2050年カーボンニュートラルを実現するには、再生可能エネルギーと原子力がそれぞれの長所を最大限に発揮する必要がある。再エネと原子力の共存共栄を図るハイブリッドシステムは、カーボンニュートル実現に最も有力かつ現実的な方策になり得る

今年5月20日に国際原子力機関(IAEA)は、原子力と再生可能エネルギーといういわば〝異種〟を組み合わせたハイブリッドエネルギーシステムの開発を促進するための、共同研究プロジェクトを始めることを発表した。

原子力と再エネはいずれも既に実績のある低炭素エネルギー源であり、カーボンニュートラル(ネットゼロ)を目指していく上ではどちらも欠かせないオプションである。現実問題として、わが国のみならず原子力発電を利用している国々では、広域に見れば原子力と再エネの共存状態にある。

しかし、両者の特長をさらに生かして、「いびつな運用」を緩和できないかという願望がある。いびつな運用とは、例えば太陽光発電の広域な出力制御である。また、小型モジュラー原子炉(SMR)を地産地消のエネルギーを実現するためのマイクログリッドに組み込む道も開ける。

異種交配(ハイブリッド)による原子力と再エネの共存共栄のアイデアは2014年頃までには新しい潮流として姿を表している 。原子力–再エネハイブリッドシステム(Nuclear-Renewable Hybrid Energy System: N-RHES)と呼ばれる このシステムでは、次の三つのケースが考えられる。①原子力と再エネが強く結合され熱電併給(コジェネレーション)などの多目的利用システム、②熱的に結合されたシステム、③給電に関してのみ弱く結合されたシステム。

本稿ではケース①について紹介しよう。

(原子力排熱を水素製造に利用)

原子力と風力・太陽光発電が結合された発電・水素製造システム(図参照)には、主に次のようなメリットがある。

①再エネの変動性を吸収でき、全体として低コストになる。

②再エネ電気も含めて給電指令に応えられる(再エネ単独では給電指令に応えられない)。

③産業部門における温室効果ガス(GHG)、硫黄酸化物、窒素酸化物、粒子状物質の排出量を削減する。

④現状は原子炉で発生する熱の約60%を捨てているが、その廃熱を熱を必要とする他の産業分野に供給できる。

⑤余剰の熱や電気を利用して飲料水や水素も製造可能も可能になり、新たな市場価値が発生し高い収益性がある――。

 電気供給システムとしては、変動する再エネ電源を単独で電源として利用するよりもN-RHESがより優れた安定的な電気供給システムになることは明らかである。

図は共存共栄システムにより、電気と水素を安定的に供給するシステムの例であるが、同様に発電と熱利用の協働システムを構築することも可能である。つまり、単なる発電システムから、熱利用や水素製造のような多目的利用(Power to X)という技術革新をもたらす。

風力。太陽光発電だけではその変動性がグリッドの不安定要因になり、停電という最悪事態を引き起こす。しかし、このような協働システムにすることで、その変動する不安定性が吸収されグリッドへの悪影響をなくすことができる。変動する不安定電源である再エネにとっても福音になるのである。

出力の小さい原子炉(例えばSMR)と再エネのハイブリッドシステムは、質が高い高温熱源もふんだんに供給できるし安定的な水素製造も可能になる。トヨタの提唱する〝Woven City 〟などの未来型地産地消都市のマイクログリッドにも最適のシステムになるのではないか。

N-RHESでは、需要と供給のバランスを常に維持しなければ停電に陥るので、発電、蓄電池、熱供給、水素製造などの各コンポーネントと需要側の各コンポーネント(送電網につながる需要家、処理プラントなど)から時々刻々発生する信号を統合的に処理するシステム開発は必須である。その問題は最近革新が著しい高速処理のコンピュータやA Iが切り拓いていく可能性が高い。サイバーテロに対する強靭性も当然求められる。

 (カーボンニュートラルの近道)

わが国では原子力派と再エネ派の間には、再エネvs.原子力という大きな壁があるが、私は再エネ派の論客にも、ことあるごとに「再エネと原子力は共存共栄の道を探り、実現すべきではないか」と訴え続けてきている。

いまだに根強くある偏狭で硬直した対立構造は利するところが何もない。再エネと原子力の共存共栄の道を関係者が協働して開いていくことが、カーボンニュートラルの実現のための近道になるのではないだろうか。

東京工業大学 助教 澤田哲生

さわだ・てつお 1980年京都大学理学部物理学科卒。三菱総合研究所、ドイツ・カールスル―エ研究所客員研究員などを経て2000年から現職。専門は原子核工学。