【コラム/7月19日】 再エネ「apple to apple(リンゴとリンゴの比較)」

2021年7月19日

渡邊開也/リニューアブル・ジャパン株式会社 執行役員 管理本部副本部長兼社長室長

 ビジネスの現場で「apple to apple」というフレーズをよく耳にしたりしないだろうか? 何かを比較する際にその比較が同一条件で比較されているかどうかということである。

 では、昨今の再生可能エネルギーの発電コストに関して「apple to apple」で議論ができているのかどうか? 今回はそのことについて触れてみたい。

 例えば、「欧米と比較して日本の再生可能エネルギーのコストは高い」という記事や資料を目にする。これは「apple to apple」での比較になっているのだろうか?

 太陽や風は地球上の至る所にあり、日本のように資源の乏しい国のエネルギー政策として、脱炭素社会の実現ということも踏まえて活用するのは誰しも異論のないことかもしれない。しかし、太陽の日射や適度な風況がどれだけ吹くのか、風向きは一定なのかなど、つまり発電事業の採算性という観点では当たり前の話だが、その条件は異なる。

 具体的に言うと、太陽光の場合、日本ではパネル容量1MWの年間発電量は110万kW時前後だというのがザックリした感覚である。一方、欧州のある国では、私の聞いた限りの数字感覚ではあるが、凡そ200万kW時超である。米国の西海岸当たりでは130-140万kW時である。言うまでもないが、日射量が違うのである。(余談だが、展示会でたまたま出会った欧州の方との会話で「スペインのカナリア諸島で実証実験やっているが、365日中360日が晴天なんだよ、ハハハ」と言っていた。)

 また、発電所を建設する土地は広大で平坦なので、日本よりも条件が良い。それは建設費用や期間に影響する。時間が延びれば、人件費等は増額する(その発電所建設に事業者として貼り付けている人員の人件費も長期の固定費となる)。特に時間というコスト(time is money)に対する認識というか報道が少ないと思う。

 風力の事例で申し上げると(これはキヤノングローバル戦略研究所の「エネルギー環境セミナー(動画)「再生可能エネルギーのコストと課題」」を是非ご覧いただきたいのであるが)、その動画の中に「日本の風況は欧州と異なり夏に大幅低下。日本の洋上風力発電の年平均設備利用率は約35%、欧州北海地域は約55%、日本の洋上風力事業の収益性は欧州を大きく下回り、国民や産業は欧州に比して7-9円/kWh買取価格を負担せざるを得ない」と解説しているスライドがある。まさにこれこそがapple to appleな視点だと思う。

 別の事例になるが、7月13日の日本経済新聞の記事に2030年の太陽光(事業用)は8円台前半~11円台後半という表が掲載されていた。

7月13日の日本経済新聞朝刊より

 

文中に「2030年時点の太陽光の発電コストが原子力を下回り最安になるとの試算により、太陽光「主力電源」化が本格化する。ただ用地捻出や送電網への接続費、バックアップ電源確保などの課題は残る。」というくだりがある。

 ここで「おい、ちょっと待ってよ」と思うのは、このコストの比較はこれから新しく建設する太陽光発電所の用地買収費用や系統連系費用はどうなっているのか? この表の火力や原子力は新設火力発電所ではなく、既設発電所のことを指し、一方、風力や太陽光のほとんどはこれから新設する発電所のことではないか?

 もしそうだとすれば、これは「apple to apple」の比較といえるのだろうか? ということである。

 2030年46%削減、2050年カーボンニュートラルの実現に向けて、官民一体となり、更には需要家の意識改革も含めて、その実現をどうやってするのか? を考えるのは勿論重要なことであるが、大事なことは、表面的なコスト比較ではなく、実現に向けた本質的な因数分解とそのコストが自然条件による制約の類のもの、事業者の努力で改善すべきもの、税制や法制度等の改善により実現できるものときちんと分けて議論していくということではないだろうか?

出典:「エネルギー環境セミナー(動画)「再生可能エネルギーのコストと課題」

リンクhttps://cigs.canon/videos/20210226_5640.html

【プロフィール】1996年一橋大学経済学部卒、東京三菱銀行(現三菱UFJ銀行)入行。2017年リニューアブル・ジャパン入社。2019年一般社団法人 再生可能エネルギー長期安定電源推進協会設立、同事務局長を務めた。